いつもよりダークです
テーマはずばり、SM
お道具、流血等はありませんが
ギンかなり鬼畜です(まだまだな気がするけど…)
一護、ドMです
それでもどんとこい!(by上田←笑える人だけ笑って下さい)
な方はどうぞ
黒崎一護 某私立大学の現在理工学部2年生 そろそろ専門を決めなきゃな…と思いながら、すでに顔なじみとなっている研究室へと足を運ぶ まだ正式に在籍している訳ではないが、ここには高校時代からの先輩である吉良イヅルが所属して いるため、イヅルがこの研究室に入ってからは、一護も入り浸る事が多くなった 幸いにというべきか、一護はこのゼミの教授にも可愛がられている為、来年の専門課程に入ったら ここに入れと今から勧誘されていた そういえば…確か新しく客員教授が来るんだよな… と、先日イヅルが言っていたことを思い出す 何でもアメリカのラボの研究員で、その頭脳を買われてわざわざ大学が呼び寄せたらしい まだ若いのにすごく優秀なんだよとイヅルが興奮したように話していた 元々勉強熱心な彼にとっては、その優秀な彼に教わる事はいたく嬉しい事らしく、研究成果がどうの 論文がどうのと一護に向かって話していたけれど、正直今から専門課程に進む一護にとっては イヅルの話は専門的すぎて、ほとんど耳をスルーしていた ただ、その中で、ラボの研究員だという肩書きが、一護の胸をざわつかせた あいつも…確かどこかのラボに居るんだったな… ふと、もう忘れたはずのその姿を思い出し、胸が痛くなるのを感じた あれから、もう5年も経つのに─── すっかり忘れたはずの胸の痛み 今では夢に見ることすら無くなったあの面影 それが、たかが似たような経歴を聞かされただけで、古傷が抉られるようにじくじくと痛み出す あまりの苦しさに、血を吐く思いで切り捨てた思い まだ、忘れてはいなかったのかと自嘲し、一護は振り払うように強く頭を振った 「お邪魔しまーす」 見慣れた研究室のドアを開けて中を覗き込む 「ああ、一護くんいらっしゃい」 ひょっこりと顔を出すとイヅルがいつになく上機嫌でおいでと手招く 「おう、なんだ機嫌いいなイヅルさん」 その様子に笑いながら一護が近づくと、イヅルが手元の冊子に再び視線を落とす なにを熱心に読んでいるんだと思い、一護も覗き込むとびっしりと並んだ横文字に思わず声を漏らす 「げっ英文じゃん」 「うん」 さらりと言ってまた続きを読み始めるイヅルに、そういえばこの人帰国子女だったな…と思い出す 「どうしたんだ?それ」 それ、とその冊子を差すと、イヅルはああ…というように釘付けになっていたページから漸く視線をあげた 「ほら、こんど新しく客員教授がくるって言っただろう?これはその方が書いた論文だよ 特定の研究施設だけに配られたものだから、こっちではまだ手に入らなくて…」 若干興奮気味に喋るイヅルをまあまあと抑えて一護は先回りして言う 「なに、じゃあ、そのセンセもう来てんの?」 「そうなんだよ うちの教授と共同研究するんだって まだ若いのに凄く優秀な人なんだよ 優秀…というよりも天才なのかな… うちの父の知り合いで、僕も以前に何度か会ったことが あるんだけど… まあ少し癖はある人だけど、彼の研究は素直に尊敬できるから 一護くんも知り合って損はないよ さっき用事があるって出て行ったけど…、そろそろ戻ってくるんじゃないかな」 「ふうん」 熱心に話すイヅルに興味なさげに呟いた一護の背後でガチャとドアの開く音がした 「あ、先生」 「おや、イヅルまだ読んでたん?」 「────!」 その、独特の訛りを聞いた瞬間、一護の身体が強張った まさか… まさか、そんな事が…… 「なに、この子もここの子ぉなんか?」 そうイヅルに問いかけるその声 「あ、いえまだ正式には… 彼は僕の後輩で…一応来年からここに入る予定なんですよ」 「へえ…自分珍しい髪の色してんなぁ それ、天然?」 カツカツと靴音を響かせて近づいてくる声 『自分、その髪天然?』 遙か昔に聞いた同じ台詞 僅かに笑いを含んだようなはんなりとした喋り方 「…一護くん?」 驚愕に固まってしまった一護に心配そうにかけられたイヅルの声が遠くに聞こえる もう…振り向かないでも…誰だかわかる 分かってしまう、厭というほど あれ程忘れたいと願った、その人物 「…ああ…、やっぱり一護ちゃんやったんや」 顔なんて見たくないと思いながら、その声につられたように振り返る そして、見開いた視界一杯に映し出されたその男を見た瞬間、一護は呆然と男の名前を呟いた 「…市丸…ギン……」 「…え…?一護くん…知りあい?」 ガンガンと鳴る頭にイヅルの声が素通りする 瞬きすらできずに市丸の顔を見つめ続ける一護に、市丸は見慣れた笑いを落として一護の代わりに イヅルに答えた 「ああ、むかぁしむかしの知り合いや …なあ、一護ちゃん?」 イヅルに向かって言いながら、市丸は明らかに一護だけに向けて話しかけていた そう、昔の…知り合い もう5年も前の もう二度と会いたくなどなかった、一護の──昔の、男 初めて人を好きになり、恋い焦がれて…それゆえに傷つき苦しんだ──幼かった恋の相手 それが、なぜ、今ここに─── 「えらい偶然もあるもんやなぁ… イヅルと一護ちゃんて先輩後輩やったんや」 「ええ…高校時代からの後輩なんです それより先生と一護くんは…」 イヅルがそう問いかけた時、騒がしい声と共に、顔なじみの学生と共に教授が入ってきた 「おおー!なんだ市丸、もう来てたのか」 「ああセンセご無沙汰してます なんや暇やってんちょっと顔出してみよか思て」 「そうか あ、じゃあウチの研究生にも挨拶させとくか おい市丸、お前暇だって言うんなら 親睦がてら飲みに行くか?」 「あ、ええですねぇ ほなみんな揃うたら行きましょか」 市丸と教授との会話に飲み会だと言って学生達が盛り上がる それを横目に一護はほっと息を漏らす どうせいずれイヅルからは市丸との関係を聞かれるだろうが、少なくともあと少しみんなが入ってくるのが 遅ければ、混乱した頭のまま叫び出してしまいそうだった このまま今日は帰ろう そう思い、イヅルに声をかけようとした時、一護の後ろから教授ががっちりとホールドをかけた 「ちょ…教授っ!」 「おい、黒崎、お前も来るだろ」 当然一護も数に入れているというようにほぼ断定的な口調で言う 「いえ…すいません 今日は…」 「ああ?いーや、却下だね お前将来遺伝子研究するなら、今のうちに市丸に可愛がっておいてもらえ!」 「……なっ…!」 冗談じゃない!と思わず口に出そうだった言葉をぐっと飲み込むと、それを聞いていた市丸が含み笑いを 浮かべ興味深そうに聞いてきた 「へえ?なんや遺伝子の方に進むんや…」 「違…っ」 「おう!こいつこう見えても結構優秀な頭してんだわ ほら、つべこべ言わずに行くぞ、黒崎」 「勘弁してください!」 言い出したら人の話を聞かない教授に一護は精一杯の抵抗を試みる だが、振り切ろうと藻掻く一護に追い打ちをかけたのはやはりこの男の一言だった 「べつにええやん 飲みに行くくらい …それに、久しぶりにゆっくり話もしたいしなぁ?」 言外に知り合いという事を匂わせる台詞に一護は二の句が継げなくなる 周りに人がいなければ、殴りつけてでも振り切っているのに、余計な詮索をされたくないという隙が 一護の態度を鈍らせる どういう知り合いだと説明を求められても、一護には説明のしようがない まさか昔の男だとも言う訳にもいかず、友人というには年が離れすぎている 知り合いと言っても、どういう知り合いだと聞かれれば、旨い言い訳も思いつかない一護には 言葉に詰まるしかないのだ 取り敢えず、てこでも連れて行く気の教授に、仕方なく頷くとようやく開放される その様子にイヅルが気遣わしげに声をかけた 「大丈夫?…もし、本当に都合が悪いなら…」 「いや…、いいよイヅルさん どうせちょっと顔出して帰ればいいんだし」 「…そう?」 「うん、教授も言い出したら聞かねえし…顔だけ出せば文句は言わねえだろ」 そう言って、その教授と談笑している市丸を盗み見る そして、再び出会ってしまった運命を呪いながら、これ以上は決して近づかないと決心を新たにした すでに顔なじみになっている居酒屋で、ほぼ全員ができあがっているなか、一護は手元の酎ハイを ちびちびと啜っていた 一護の様子を気にしてか、さっきまで隣にいたイヅルは、先輩から引っ張っていかれ、今は市丸と なにやら話し込んでいる その様子をぼんやりと眺めながら、一護は無意識に市丸の姿を目で追っていた 相変わらずの長身痩躯 だが、昔の方が若干線が細かったように思う 顔つきも昔の青年ぽさが抜け、大人の男の精悍さに変わっている 変わらないのは、その見事な銀色の髪 5年だ…… あれから、もう5年も経つのだ 一護が市丸と付き合っていたのは中学二年から三年の終わりにかけてのわずか二年足らずだった 今思えば、本当に子供だったのだと思う 友人の家庭教師の友人というほとんど接点のない関係 偶然のように出会って、一護はまずその容姿から目が離せなくなった 二人きりで会うようになったのはいつからだったのか 互いに惹かれるように恋に落ちた いや、落ちたと思っていたのは、もしかしたら自分だけだったのかも知れないと今では思う あの頃の一護は、自分から見てもおかしいと思うくらいに市丸しか目に入らなかった 初めての恋 初めてのキス そして初めてのセックス 何もかもすべて、この男が一護に教えたのだ そして、幼い一護はその与えられるものすべてに馬鹿みたいに溺れた 幸せだった、市丸と居る事が それが、未来永劫ずっと続くものだと、あの頃は信じていた 無条件に その信頼に不安が交じり始めたのはいつからだったのだろうか 大学院生と中学生 大人と子供 今でこそそこまでの年の開きは感じないが、中学生からみた大学生は完全に大人の領域だった 自分が知らない市丸の生活 市丸に溺れてゆくにつれ、だんだんと自分が知らない彼に沸き起こる嫉妬 恐らく今もそうなのだろうが、あの頃の市丸は、とにかくモテた ひっきりなしに女性に言い寄られ、その上何度も浮気を繰り返し、そのたびに一護は傷ついた 市丸に近づくものすべてが許せなくなり、彼の行動のすべてに疑念が沸き起こり 挙げ句の果てには、彼の言葉すら信じられなくなって、何度も何度もケンカを繰り返した その度に、飄々とした態度で一護を言いくるめるような台詞を吐く市丸を許し、また同じ事を繰り返され… 思いの深さに比例するように付けられた傷も深くなる──そんな日々に一護は疲れ果て そして、そんな時に市丸のアメリカ行きの話が持ち上がったのだ 「飲んでる?一護ちゃん」 ふっと自分の思いに沈み込んでいた一護に、テーブルをはさんだ市丸から声をかけられる そして、隣のイヅルに一言二言声をかけると、グラスを持って近づいてきた 「なんや、全然飲んでへんやん 酒飲めん訳やあらへんやろ?」 するりと一護の隣に腰を下ろす さすがに逃げ出したいと思ったが、イヅルの心配そうな視線に気がついて、それもできなくなる あまり不審な態度を取るのも憚られるので、一護は仕方ないと覚悟を決める こんな状況で会った以上、避け続ける訳にもいかないのだ 「…久しぶりやね…」 すっと声を落として市丸が言うのに、一護はそうだなと呟いた 「何年ぶり?4年…いやもっとか…」 「5年…」 「ああ…そうやった 5年かぁ 早いなあ… 一護ちゃんあの頃まだ中学生やったもんなぁ」 懐かしそうに言う市丸に、一護は僅かに苛立つ もう、この男にとって一護は、単に昔の恋の一つに過ぎない、懐かしい存在でしかないのだ そして、それに苛立つ自分を馬鹿みたいに思う 「お前…なんで帰ってきたんだよ…」 つい口調が恨み言になる どうして、今更帰ってくるのか あのままアメリカでもどこでも行ったままでいてくれれば良かったのに…と そんな一護の気持ちなどお構いなしに、市丸はのんびりした口調で話し出す 「ん〜、なんで言われてもなぁ… 丁度向こうの研究が一段落ついてな 前からここの客員に誘われとったし、いい機会やから…ちょっとラボ以外の空気吸うのもええやろ思てな」 「そんな理由で…」 そんな体したことない理由で帰ってきたのかと言いたくなる しかも…、何も自分がいる大学に来ることはないだろうに 「なんや、一護ちゃんがここの学生やて知っておったら、もっと早う帰ってきたのにな」 揶揄うように言う市丸に、一護の眉間の皺が深くなる 「…ふざけんな… 俺は…会いたくなんかなかった…」 他には聞こえないように、小さな声で市丸に向かって吐き捨てた それを意に介さずに市丸は面白そうにふうんと呟く 「まあ、ええわ で、専攻どうするん?ほんまに遺伝子やるの?」 「まだ…わかんねえよ… 面白そうだとは思うけど…」 そこで、一護は、はっと気づく 「てか、お前、専攻数学じゃなかったか?」 「うん、そうや でも遺伝子やるには数学やって必要なんよ って言うかそういうのやってる方が便利やし 色々」 確かに市丸の言う通りだと思う だが、元々の頭の出来が違うのか、市丸のように同時にいくつもの専攻を収めて実践できる人間など 稀だということに本人は気づいていない それがまた、腹立たしく思えてしまう ああ…なんで、昔の俺はこんないけ好かない奴が好きだったんだろう… これからどんどん、こういう嫌な所ばかりみせて欲しいと一護は思う そうしたら…もう…、この刺すような胸の痛みが無くなるのに… 「ああ、そや…一護ちゃんちょっと」 そう言って市丸は耳を貸せという仕草をする 「なに…」 本当に近づきたくないから、勘弁してくれと思うが、市丸のしつこい仕草にとうとう根負けして耳を寄せる 「イヅルには知られたないんやろ?ボクらの事」 「!」 「で、どうせ一護ちゃん良い言い訳なんぞ思い付かへんやろうから、 適当に昔カテキョしてた子いう事にしといたわ」 「え…あ…ああ、…ありがと」 ぼそっと呟く一護に市丸がにっこりと笑う そうだった 昔からこいつはこういう所はホント頭が良く回る奴だったと思い出す 「ええよ まあ…安心したわ ほんまに先輩後輩みたいやしな…」 「…なに…」 意味深な市丸の台詞に思わず眉が寄る 「なんもない」 それに含み笑いで返すと市丸は手元のグラスを空けた 市丸がこの大学に来てから一月が経とうとしていた 相変わらず、姿を見れば嫌な気分になるものの、さすがに教育課程と専門課程 研究室に顔を出す以外は然したる接点もなくすんでいるのが、一護には有難かった そんな中、またもや恒例の飲み会が開かれる ただし、今日は飲むと一番タチが悪い教授は欠席 市丸も午後から席を外して居るため 学生だけの心おきない飲み会となる 元々、飲めはするが、あまり強くない一護は、普段ならペースを抑えて飲むのだが 今日は久しぶりに、気の合う先輩達に囲まれて、市丸のいない気安さからいつもよりピッチが速かった 「一護くん、大丈夫?」 「おう!」 そう聞くイヅルもかなり飲まされている 学生の酒は質より量 安酒を大量に飲めば、嫌でも酒が回る このところ研究室に行っても、市丸が居るため緊張が解けなかった一護は、何かに開放されたように がんがん飲みまくっていた と、楽しく飲んでいたら…いきなり、ぐらん、と視界がぶれた ヤバイ、飲み過ぎたと思う暇もなく、頭がぐらぐら揺れ始める それにつられるようにどんどん胸が悪くなる だが、周りの酔っぱらいはそんな事などお構いなしに一護の空いたグラスに次々と酒を満たす やべえ… 「先輩の酒が飲めねえのか!」と、これまたお定まりの台詞を吐かれて なんとかこの場から逃げだそうと、トイレに立った だが、なんとかトイレのドア付近までたどり着いた時に、がくんと足の力が抜ける 倒れるという意識も無いまま、崩れ落ちる身体 そのまま床に激突すると僅かに残る意識で思ったが、いつまでたっても衝撃はやってこなかった 「一護ちゃん、しっかりしい!」 ふと、自分が力強い腕に支えられている事に気づく 「……ギン…?」 聞き慣れたその声になんでこんな所にいるんだと、不思議そうに見上げる一護に、市丸は呆れたように 顔をしかめる 「まったく…調子に乗ってからに… 飲み過ぎや、自分」 「!」 「一護ちゃん?」 「…きもちわるい…」 「こっち来ぃ!」 そう言って市丸は一護をトイレに連れ込むと洗面台に顔を近づけた 「う〜…っ……ゲホっゴホっ……ぐっ…」 食べたものも酒もすべてぶちまける一護の背中を市丸が労るようにさする ひとしきりもどし終えて口を濯ぐが、まだ気持ちが悪い そこへ、一護が居ないことに気づいたのか、イヅルが顔を出した 「…市丸先生…?え…一護くん!? 大丈夫!?」 「イヅル、おしぼりと水もろてきて!」 それに市丸がてきぱきと指示を出す イヅルがあたふたと持ってきたおしぼりと水を受け取りながら、市丸は甲斐甲斐しく一護の世話を焼く 「どや?」 「むかむかする…」 あまりの気持ち悪さに単語しか出ない 「まったく…しゃあないなぁ ほんま顔出して良かったわ…」 そう呟く市丸に、世話をされている事も忘れて、お前なんか来るなと一護は心の中で思う 本当は振りほどきたいのだ この身体を支えてくれているその腕も、背中をさするその手も 市丸のものならいらないと思う けれど、今の一護にはそれを振り払うだけの体力も気力もなかった 「本当に大丈夫ですか?一護くん…急性アル中とかじゃ…」 「ん、たぶん大丈夫やろ 体も冷たないし、震えもないようやし… とりあえずボクが送ってくわ」 「え…でも…」 「何言うてるん みんなええくらい飲んどるやろ ボクは今来たばっかりのシラフやし どうせ車やから飲む気なかったしな…丁度よかったわ」 勝手に一護を送ると言うことで話が纏まってゆく それに対して抗議したいのに、ぐらぐら揺れる意識が言うことを聞かない そして、一護は二人の言葉を聞きながら、もうなんでもいいやと思っていた 市丸の車の助手席になんとか収まって、姿勢が楽になるようにシートを倒される 「ほら、一護ちゃん これビニール袋持っとき 気持ち悪なったらこれにもどしてええからな?」 「ん…」 市丸の言葉を半分夢うつつで聞きながら、ゆっくりと車が滑り出すのを感じる そういえば、こうして市丸の車でよくドライブに行ったなあ…と思い出す 突然思い立って箱根に行って温泉めぐりをした事、朝日を見る為だけに夜中から出かけたこと こうやって助手席に座って、運転しながら口を開ける市丸にお菓子を食べさせてあげた事 他愛も無いことが次々と思い出されて 忘れたと言いながら、何一つ忘れていない事を思い知る もし、あの時 自分がもう少し大人だったなら こんな風に別れる事はなかったのだろうか そこまで考えて、一護は心のなかで違うと首を振る 市丸という男の性質は、何年経っても変わらないのだ、きっと 大人のくせに子供みたいに甘え上手で我が侭で そして、それには際限がない 市丸の狡さと内に秘めた怖さは自分が一番よく知っている この男は、ちゃんと自分を甘やかせてくれる相手ばかりを上手に選んで、 結局自分が何をしても許されるという立場に持ってゆくのだ そのせいでたとえ相手が傷ついても、そのよく回る口で最終的には相手を丸め込めるという事を 彼はよく分かっている そうやって、うまく相手を甘やかして、甘えて──そして、ある日突然飽きるのだ、子供みたいに ずるくて、残酷で、優しい男 だから、誰も憎めない あの頃、子供ながらに市丸のそんな性質を見抜き、誰よりもこの男の近くにいたという自信が一護には あった こんな残酷な男をずっと愛し続けていられると思っていた けれど─── ある日突然、何かがポッキリ折れるように、もう耐えられないと思ってしまった これ以上傷つけられるのは沢山だと、そう思った 彼と離れる事で恐らく自分は取り返しがつかないくらいに傷つくだろうと言うこともわかっていた だけど、自分が愛した相手から付けられる傷は、甘いからこそタチが悪いのだとあの二年で 思い知ったのだ 傷つけられる痛みさえも甘さに変わる事に慣れてしまったら、もう本当に自分はこの男がいなくては 生きていけなくなると怖くなった 市丸の渡米をきっかけにして、地を這うような思いをして別れたのに 5年かかって、ようやく夢に見ることが無くなったのに どうして、今更自分の前に現れるのか 夢と現の狭間の中で、一護はただこの男から逃れたいと願い その男の側で、ゆっくりと意識を手放した to be continue [NEXT] |
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※ちょっと長くなったので、ぶった切りました 近いうちにupしますので、少々お待ち下さい あ、客員教授とか研究室とか、まあ適当です 何か引っかかっても気にしないで下さい |
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