見えない鎖 3




ぴちゃりと一護の舌が市丸の親指に絡む
それにゆっくりと舌を絡めてまるで市丸のペニスを舐めるように唾液を絡ませて舐めしゃぶる
「ん…ふぅ……ギ…ン……」
頭が狂しくなるほどの快楽
もう二度と触れることは許さないと自分に戒めた男に触れられる悦び
とろとろに溶かされた思考と共に、一護の身体が市丸を求めて暴走する
「ほんまに…これやから一護は離されへんのや… なぁ…どうやの?今めちゃくちゃ感じとるやろ…?」
「……ん……ぁ…っ」
市丸の指に口腔を犯されながら、蔑むように見下ろされる氷の瞳に一護は次第に狂いはじめる


市丸の言うことが真実だとは思わない
彼の行動に傷ついたのは紛れもない事実だ
それでも…一護の狂った思考は、それが真実だと告げてくる
一護のすべてを奪いながらも、まだ足りないというように一護の心に深い傷跡を何度も残し
傷つき血を流す一護の傷口に快楽という名の甘い毒を流し込まれる
あの頃の幼い一護には、それに溺れてゆくしかなかった
この男の望むものは果てしなくて───それでも、この男といられるのなら、それでもいいとすら思った


いつからだったのか


この男から与えられる毒を含んだような快楽に狂いはじめている自分に気がついたのは
すべてを支配されて……心も…身体も…なにもかも、この男に支配される事を悦ぶ自分
これ以上一緒にいたらもう二度と引き返せないというギリギリの所にきて
この男に狂う自分が初めて怖くなった
遊ぶだけ遊んで、興味がなくなった瞬間ばっさりと切り捨てる市丸の残酷さ
それが自分に向けられる事など、考えた事もなかったのに………
愛していると何度も言われたのに……
本当にそうなのだろうかと…ふと沸き起こった不安に一護は捕らわれた
これから先彼が一護と共にいる保証なんて、どこにもない
心も体も市丸に慣らされて、離れられるはずもない
一護を愛していると言いながら、平然と他の女を抱く男
それに藻掻き苦しむ一護を当たり前のように抱く男
嫉妬に狂い…彼を引き留める為に彼の望むことはなんでもした
堕ちろというなら、どこまででも堕ちた
その姿が見たいが為に、浮気を繰り返す男を何度でも許した
この男に付けられる傷ならたちまち甘さに変わる
だけど……怖かったのだ
このままこの男に溺れる事が

溺れたまま捨てられる事が───


まるで逃げ出すように別れて


何度も…何度も市丸を振り切ろうとした
この男の面影すら忘れようとした
忘れようとして、忘れられなくて……魂の奥深くに刻まれた思いを断ち切ろうとあがいた
それでも……忘れたとようやく安心したのに……ふとした瞬間にこの男を思い出して心が、身体が鳴き喚く
どうしても断ち切れない思いが、この男を愛していると叫ぶ


その男が……今自分を求めている
もう、一生抱かれることは適わないと思った…たった一人の一護の男
その男に求められて……嬉しくないはずがない
もう、とっくに忘れられていただろう自分の事を、この男はまだ求めている
昔と同じ口調で、愛していると告げる
その言葉に…求められているという事実に、一護の心が歓喜に震える

この男は───一生自分を手放す気などないのだ
どんなに自分が溺れても……堕ちていっても……たとえ狂ったとしても………

だったら……
もう、いい
もう──自分に嘘をつかなくても、いい
この男以外は…もう、何もいらない

何もいらないから───だから………


「……ギ…ン……っ」



───俺を──壊して───




いつの間にか、一護は上体を起こして市丸のすべての指に舌を這わしていた
ぴちゃぴちゃといやらしく水音を響かせて、指先から指の又まで丁寧に舌を這わせ
軽く甘噛みしたかと思えば何本か纏めて口腔へと招き入れ、まるで口淫を施すように
舌を絡め唇をすぼめて扱くように吸い上げる
細身のジーンズの中で一護の陰茎が今にもはち切れそうに膨らみ、締め付けられるような固い布に
苦痛が交じり始める
じわりと染み出した先走りで下着はもうぬるぬるになり、奥まった箇所が市丸を求めて疼き出し、
誘うように腰が揺れる
はやく何とかして欲しいと……
一護は欲情に濡れた瞳で市丸を見つめる

「なんや…指だけで、もうたまらんの?」
「ん…」
そうだと言うように含んだ指に濡れた舌を絡めれば市丸の瞳が意地悪く嗤う
ぴちゃぴちゃとわざといやらし気な水音を立てて、市丸の情欲を煽る
「まだ指舐めただけやで…?…ホンマ淫乱やなぁ」
その様子をくすりと笑われて、それだけでイきそうになった一護の爪先が反り返る
「あ…は…ぁっ」
びくんっと上体が反らされ、一護の腰が市丸に向けて突き出される
瘧がついたようにがくがくと震える身体
「ホンマいやらしい子ぉやな、一護は …どないなっとるか…ボクに見せて?」
ぬるりと唾液に塗れた指を引き抜かれる

「…あ……ぅん…っ」
市丸の言葉に誘われるように、一護は震える指でジーンズのフロントを外し、濡れた下着ごとジーンズを
降ろすと、すでに天を仰ぎトロトロとはしたなく密を零す性器を取り出し市丸の目に晒した
「……ギ…ン…ん……は…ぁっ…」
市丸に慣らされたセックスは、羞恥ですら一護の快感を煽るものでしかない
氷河の青を纏う市丸の双瞳に見つめられて、一護はもっと見て欲しいとでも言うように後ろ手をつき
ゆっくりと両足を開いた
その姿を満足そうに見つめながら、市丸が笑みを深くする
「なんや…もうイきそうになってるやん」
「…ふ…あ…ああっ」
その言葉に一護の鈴口からこぷりと密が吐き出される
ただ市丸に見られているというだけで、たまらない程の射精感が一護を襲う
「…も……ギ……ン…あああっ……イ…かせ…て…ぇ……っ」
許してと、まるで懇願するように市丸の名前を紡ぐ
「あ…ああっ……や…っ お…おねが…っ…もうっ…イ…くぅ…っ」
びくびくと震える一護の姿を見下ろして、指一本すら触れることもせず限界を訴える一護に市丸が
うっすらと笑った
「たまらんの…?」
「…う…んん……っ はっ……イ…いくっ……も…だ…めっ」
「しゃあないなぁ… まだ何にもしてへんやろ」
「や…っ だ…だめ…っ ゆ…るし…てっ イきた……あああっ」
快感に揺れる腰を振り立てて、昔教えられた通りに市丸に射精の許しを請う
どんなに身体が限界を訴えても、この男が許さない限り達する事が許されなかった事を一護はちゃんと
覚えていた
「はぁああ……っ あっ…あ……ギ…ン……ぅ」
触れられなくても目の前に市丸がいるというだけで、たまらなく感じる
だらしなく開いた口元から、ひっきりなしに唾液が滑り落ちる

そして
「ええよ イき」
「あ… あああああああっ!………っ!」
市丸の言葉が放たれた瞬間、一護は嬌声を上げて身体を震わせながらその精を吐き出した



「は…あ、あ、……ああっ」
「なんやの一護 またイったん?」
一護の胸の飾りを食みながら、くすりと市丸が零すと、僅かにかかる息が一護の濡れた乳首にぞくりとした
快感をもたらす
「……ぁ…ふ…」
「さっきからずぅっと、勃ちっぱなしのイキっぱなしやん…そんなんやと保たへんで」
「は……だ…って…」
着ているものを全て剥ぎ取られて、漸く市丸と素肌を重ね合わせただけで、一護の身体は歓喜に震えて
ひっきりなしに蜜を零す
自身の身体に市丸の指が、唇が滑ると、もういつ射精したのか分からない程、一護は精神で達し続けていた

久しぶりに触れられる市丸の素肌が、指が、唇が舌が声が…全てがたまらない程感じる
「我慢きかへんようになってもうて…
しゃあないなぁ… もう一回躾けなおさんとあかんなぁ、一護」
「ん…ギ…ン… も…欲し…」
先程から、意図的に外される後肛への愛撫を強請る
「ん?」
「挿れ…て、ギン…っ 挿…れてっ」
「どこに?…ちゃんと分かるように言わな」
「…あ…こ、こ…」
自然と開かれた両足を自らの手で抱え上げて、左右にがばりと大きく開きひくつく下の口を市丸の目に晒す
それに、くすりを笑みを零して市丸の指がそぅっと入り口を撫で上げると、まるでそれを咥え込むように
入り口がぱくぱくと収縮する
「ああ…もう入り口一護のんでトロトロや… 中かてもう濡れてるやろ?
これやったら解さんでも入るん違う?」
そう言いながら市丸は、濡れたそこに一気に三本の指を埋め込んだ

「あああっ…!」
その刺激に一護の身体が反り返る
だが、市丸の言うようにすでに濡れそぼったアナルは、まるで待ち望んだかのように喜んで市丸の指を
迎え入れた
それを含み笑いで見下ろしながら市丸は久しぶりに一護の蕩けた内部の感触を楽しむ
ぐちゅぐちゅと音を立てて指を抜き差ししたかと思えばばらばらに動かして狭い内部を蹂躙する
指に絡みつく襞をひっかくように爪を立てれば、その痛みすら快楽に変換させて一護が嬌声を上げる
「ぃ…っ!ああああぁぁぁーーーーっ!」
ぎゅうっと締め付ける肉襞に、一護が後ろで達した事が知れる

「…なあ…一護 ここ…ボクがおらん間、誰ぞ咥え込んでないやろな?」
そう言いながらも、さすがにいくら慣らされたといえども数年ぶりに異物を受け入れた内部はやはり狭く
そのこと自体が一護の身持ちを証明していた
「してな…っい…」
疑うような市丸の言葉に、一護はふるりと首を振る
「ほんまに?一護のカラダ誰かに触れさせてへん?」
「だれ…もっ 誰も…してな…っ」
「なんで?」
市丸の言葉をぼんやりした頭の中で反芻するように、一護は市丸に視線を移してゆっくりと瞬く
「なあ、一護 なんで?なんで誰にも触れさせてへんの?」
市丸の問いかけに、一護は言われた事がわからないというように首を傾げる

なぜ……
なぜって…だって……
だって…この身体は……

「……ギンの……」
「ん?」
優しく問い返されて、一護はどうしてそんな事を聞かれるのかと不思議に思う

そんなのは分かり切っている事
市丸も……自分も……
どうして今更そんな事を聞くのだろう……

「……だって…俺は…ギンの……」

この身体は彼のものだから
ずっと、彼だけのものだから

「離れておっても…?」
市丸が確認するように一護に問う
それに、一護はこくりと喉を鳴らして、上手く回らない舌でたどたどしく告げる
「だって…そんなの…」

そんな事、なんの関係があるというのだろう
離れていようが、何年経とうが、この身体が市丸のものでなくなる日なんて来るわけがないのに
もうすでに──自分のものですらないのに
それをうまく伝えたいのに、鈍る思考と震える舌が上手く声にならない
どうすればちゃんと伝わるのかと、市丸を見つめると、市丸はわかっているというように一護の髪を梳く
「ええ子やな…一護は…」
「……ギン……」
「やったら…ちゃぁんとご褒美あげんとなぁ」
「ん…」
市丸の言葉に、一護の目に期待が灯る
やっと…やっと欲しかったものが与えられる───


その一護の欲に溺れきった姿に市丸はさらに口角をつり上げる
「まったく…離れたい言うたかと思えば、今度はご褒美欲しがってからに…
我が侭もたいがいにせな」
「は…っ あ…あぁ」
「誰も咥え込まんとええ子でおったいうんはご褒美あげてもええけどな…
その前に…一護?なんかボクに言うことあるやろ?」
そう市丸が冷たく言い放つ
「あ…ごめ…っ…ごめ…なさっ…ああっ」
ぱたぱたと一護の目から涙が零れ落ちる
それが過ぎる快楽のせいなのか、市丸への謝罪の為なのか もう一護にはわからなかった
その一護に、市丸がすっと手を伸ばして頤を掴み、顔を上向かせてギリギリまで顔を近づける
「…このまま…離したろか?」
にぃっと、口角をつり上げながら市丸が嗤う
その言葉に、快楽に塗れた一護の背に冷たいものが走った
「い…… い…やっ!嫌っ!……ギンっ…っ!」
頤を捕らえられたまま、全身で拒否するように激しく首を振る
「なんで…?離してくれ言うたやろ?今やったら、離したるで?」
「いや…っ!も…っ ごめんな…さ…っ…許し…て…っ」

やっと…やっと壊したのに
たった今、全部…何もかも捨てたのに───っ

シーツを掴んでいた一護の腕が縋るように市丸に伸ばされる
「一護」
それを一言で押しとどめて、市丸は尚も一護の双眸を射る
目の前の市丸に、触れる事すら許されない
一護の人格も、人としての自尊心も──何もかも全て差し出せとその瞳が嗤う
「は…ぁ… も…ギン… い、や… …てないで… 捨てっないでっ──ギン─っっ!」
止まることを知らない涙が一護の眦を滑り落ちシーツに染みを作る
「お願…っ っ…でもするっ なんでも…する…からぁ…っっ」
「ホンマに?」
濡れて歪む視界に市丸の瞳を移しながら一護はこくこくと頷く
「す…るっ なに…しても…いっ ギンだ…けっ ギンになら…も…何されて…も い、いっ」
「…壊しても?」
するりと、市丸が怖い台詞を吐く
それに一護は、躊躇することなく頷いた
「ん…っ」
「──なら…、もう…一護は『人』やないで?」
「…ん…」
「ボクの『物』や ボクがそこまで望んどんの…知ってて言うてる…?」
「う…ん…」

知っていた
市丸が求めていたのが、尋常な関係などではないという事など
この男の愛情が、独占欲と加虐性の果てにあるという事を
恋人だと言いながら、市丸が求めるものは、『人』などではない事を
そして──その愛情に惹かれた自分も人であることなど、本当は少しも望んでいないという事を──
そんな事は、もうあの時からすでにわかっていた
どんなに否定したとしても、自分の中にある被虐を望む歪んだ心がある事を───


もう、わかった
思い知った
離れていた間に十分に思い知った
たとえ離れていても、自分が誰のものなのかを───

人でなくていい
ただの物でいい
市丸の──所有物に成り下がる自分にゾクゾクする程感じる

「…は…ぁギ…ン」
「ん?」
「……して……」

情欲に蕩けた顔で、一護がうっすらと微笑む
普段の零れるような笑顔とは対極の、壮絶ともいえる色香を漂わせた男を誘う妖しい笑み
あの幼かった時ですら、市丸を惑わせたその表情は、月日を経て尚一層妖しさを増す
普段の一護の笑顔が太陽を思わせるような温かい笑みならば
譬えて言うならこれは、月光を受けて美しく咲き誇る月下美人
月の光の下でしか咲くことのできない妖しい花の色香

「……なにを……?」
追い詰めて、追い詰めて…漸く見る事のできる一護の魔性
「…して… 俺を…ギンの……モノにして……」
「ええよ…」

捕らわれたのは、自分か彼か───

それでも、もう縛り付けて離さないと言うように、市丸は一護の身体を抱きしめた



end



※もう何て言ったらいいんだか…
とりあえず神鎗に射殺されてきます
そして月牙で木っ端微塵にされてきます
でもこの話…まだ後日談あるんだよな… ←懲りてない