狂宴の後日談…というか、後処理的な話。
いよいよ本格的に、一護ぶっ壊れてます。
テーマはSMといいながら、そんな場面まだ全然出てきてませんが、
これから序々にSM色が強くなってくると思います。
あ、タイトル読みは、「うたげのおわり」です。


  見えない鎖 ─宴の終わり─



「…ん…っ」
秘めやかな甘い喘ぎが空間を満たす。
朝の陽光が降り注ぐ部屋。
その明るく爽やかな日差しの中、二人の周りにだけねっとりと濃密な夜の空気が纏わりついている。
リビングのソファの上で、腰掛けた市丸の脚に上半身を預け腰だけを高く上げた一護は、一度ふるりと身
震いをして市丸の脚にしがみついた。
「…あと一つ残ってるで。まだお腹一杯になってへんやろ?」
ほら、力抜きぃ…と、市丸が軽く一護の尻を叩く。
「あっ…んっ」
ゾクっと身体を震わせたのは軽い打擲のせいなのか。
それともそのまま滑らされた指で後肛を撫でられたせいか。
キュウと締まる内壁が中に潜り込んだ物に阻まれソレに絡みつく。その刺激でまた一護の口から喘ぎが
上がった。

四つんばいの姿勢で一護はゴルフボール大の玉が連なった玩具を後肛に埋め込まれていた。
玉は全部で四つ。漸く今三つ目を受け入れた所だったが、一護はこれ以上はダメだと言うように頭を振り
市丸を見上げた。
「も…やぁ…っ」
子供のように甘えを含んだ拒否。その声と表情は苦しいと言うよりも、恍惚としているように見える。
言葉とは裏腹に妖しく揺れる腰が一護の状態を雄弁に語っていた。
「ややないやろ。こんなモンで悦んだらアカン言うてんのに…聞き分けない身体やな」
それを与えているのは市丸の筈なのに、市丸は蕩け始めた一護の表情を醒めた眼で見下ろした。
それに一護は違うと言うように、市丸のシャツの胸元を掴みフルフルと首を振る。
「違…っ、ギン、が…っ」
「なんや。ボクが欲しなったん?」
クスリと笑みを零して一護の顔に近づけると、一護はそのまま市丸を引き寄せてキスを強請る。
そのまま軽く口付けてから、市丸は縋り付くように上げられた一護の上半身を片手で押さえ付け膝の上
に戻した。

「アカン言うてるやろ。そろそろ出かけんと。また置いていかれんの…嫌やろ?」
市丸の言葉に、一護はキュっと唇を噛みしめ、こくりと頷く。
諦めと共に力の抜けた身体を支えて、市丸は最後の玉を一護の中に潜り込ませた。
「ほら、全部入ったで。もう、この大きさにも慣れたやろ?歩くん辛ないな?」
「…うん…」
ぼうっとどこか放心したような一護を抱き起こし、膝の上に抱え上げる。
子供の様にされるままになっていた一護は、少し拗ねたような顔をして俯いていた。
「一護。ちゃんと我慢せな。どうしても辛なったらボクんとこおいで。せやけど…出来るだけ我慢して講義
ちゃんと聞くんやで?一護が自分で決めた事やろ?」
「ん…」
言い聞かせるような市丸の言葉に、一護はコクっと頷く。そのまま市丸の胸に顔を預けると、市丸がいい子だと言うように優しく髪を撫でてきた。
「ナカ…どや?」
「ん…いっぱい…」
「気持ちええ?」
意地悪く問いかけると、一護が潤んだ瞳で市丸を見上げた。
「……ギンが…いい…」
「当たり前やろ。帰ったら一杯ボクのんしゃぶらせたるから、それまでちゃんとコレしゃぶってんやで」
「うん…」
「なら、お着替えしよか。おいで、一護」
そう言って市丸が立ち上がり、一護の腰を抱き寄せた。
「ギン…キスして…」
「しゃあないなぁ」
一護のお強請りに、今度は市丸も素直に応えてやる。できるだけ一護の官能を煽らぬよう絡みつく舌を
あやすように解いていく。ゆっくりと解かれる口付けにまだ名残惜し気な表情を浮かべる一護の額に軽く
キスを落とす。
窓から差し込む明るい陽光を受けて、一護の髪が綺麗に輝く。
今日からまた──新しい日々が始まる。




そろそろ学期試験の時期に差し掛かり、学内が慌ただしくなった頃──。
ずっと大学を休学していた一護が漸く姿を見せた。

復学したその日に、いつものように研究室にふらりと現れた一護は、仲の良い教授や先輩達から「心配
したぞ!」という声と共にもみくちゃにされながら、「すいません」と小さく頭を下げてから、過剰なスキンシップで纏わりつく教授を容赦なく張り倒し、いつもの如く周囲の笑いを誘っていた。
そして、たった今自分が張り飛ばした教授にまたペコリと頭を下げると、「来年からお世話になります」と
笑顔を作った。
「おおー!なんだ、やっと来る気になったのか!」
「お前、それよりも単位落とすなよ?ったく気が早ぇよ!」
「なんだ、休んでる間に将来の事でも考えたのかぁ?」
口悪く言いながら、それでも入学した当時から可愛がっている後輩の口から初めて出た言葉に先輩達は
素直に喜び、最初キョトンとしていた教授も、満面の笑みを浮かべて一護の頭をポンポンと叩いていた。
そして…その輪の中から少し外れていたイヅルだけが、その様子を思案気に見つめていた。

その視線に気づいた一護が、盛り上がる輪を抜けてイヅルの元に歩み寄る。
「…イヅルさん」
久しぶり…と小さく言って、一護が向かいの椅子に腰を下ろす。
「…もう…いいのかい…?」
労るようにそう言うイヅルの声に、一護は「心配かけてごめん…」と目を伏せる。
「少し、話したいんだけど…いいかな」
そう言って席を立った一護は、「もう帰るのか?」と言う教授に、「後でまた来まーす」と元気よく言って
イヅルの返事を待たずにそのまま研究室を出て行った。


「一護くん…!」
校舎の裏手にあるベンチまで来て、一度も振り返らずに前を歩いていた一護が歩みを止める。
すとんとベンチに腰を下ろして、一護はそこで漸くイヅルと視線を合わせた。
無言で促されるままイヅルも一護の隣に座る。
向かい合わせではなく、隣同士という事に一護の顔を直視できずにいたイヅルは少しほっとしていた。


「…ごめんな、イヅルさん…」
何を言っていいのか分からずに黙り込んだイヅルに、先に口を開いたのは一護だった。
「覚えて…るんだよ…ね…?」
あの日───。
市丸から誘われるままに一護を貪ったイヅルは、あの後激しい自己嫌悪に陥り、一護の状態を心配しな
がらもメールの一本も打つことができずに鬱々とした日々を送っていた。
市丸の話では一週間もすれば元に戻ると言っていたが、結局あれから一月近く一護は大学を休んでいた。
一護と共に大学から姿を消していた市丸は、さすがに仕事という意識があったのか、二週間ほどで研究室に戻っては来ていたが、結局あの日の事はお互い口には出さず…二人だけで話す機会もないまま、一護の事は一度も話題に上る事はなかった。
こうして再び一護が元気に復学した事を嬉しいと思う反面、イヅルの胸中は複雑だった。
せめて一護があの時の事を忘れていてくれたら…とそう思っていたが、イヅルの願いに反して一護は正気を飛ばしながらも、イヅルの行為を覚えていたようだった。

「…うん…」
視界の端で、一護が小さく頷く。
それに居たたまれない気分で、イヅルは首を横に振った。
「謝るのは僕の方だよ…。あんな事するべきじゃなかったんだ…。いくら…その…」
市丸から誘われたとしても。一護が手を伸ばしたとしても。
そして──、自分が一護に欲情していたとしても。
上手い言葉が見つからずに口ごもるイヅルに、今度は一護が頭を振る。
「違うよ。イヅルさんが悪いんじゃない。…誘ったのはギンで…求めたのは…俺だから…」
「そんな事…」
「ギンから聞いたよ。イヅルさんには全部話したって。…本当に、ごめん。こんな…俺達の事に巻き込ん
じまって…」
「一護くん…」

『俺達の事』と一護は言った。
そして…その言葉で、一護は無意識にかこの先に続くであろうイヅルの言葉を切り捨てていた。
一護がどんなに市丸を想っていたとしても、あの男は危険過ぎる。
市丸がなぜあの場にイヅルを呼んだのか、一護に話したであろう事は恐らくほんの一部分でしかない。
二人の関係に於いて、イヅルが与えられていた役回りがどんなものであったかなど、一護は知らない筈だ。
一護を手に入れる──ただそれだけの為に、全てを利用する市丸の怖ろしさなど、一護は知らない。
このまま一護が市丸の側にいても、一護の為になる事など何もない。
今、市丸から離れなければ本当に取り返しのつかない事になってしまう。
──そう、思うのに。
イヅルの口から出た言葉は、それを止めるにはあまりにも力ないものだった。
「…本当に…それでいいのかい…?さっきの研究室入りの話だって…あの人がそう望んだからなんだ
ろう?」
本当に、何もできない己の無力さをひしひしと感じる。
一護の為にならないとそう思いながらも、市丸の毒気に充てられてイヅルは噛み付く牙さえ失ってしまっていた。

一護は知らないが、今日イヅルが一護に会うのはこれが最初ではない。
昼近く、資料を探しに訪れた書庫でイヅルは一護の姿を目にしていた。
研究室に隣接する狭く奥行きのある書庫。実際に研究に使う資料等が収められているのはもう一つの『資料室』と呼ばれる方で、こちらの方が場所も広く使い勝手が良い為、今はみな主にそっちを使用している。
問題の書庫は昔の論文や、今はあまり使われなくなった資料の保管庫としての意味しかなく、研究生も今では滅多に足を踏み入れない場所だった。
まだ誰も居ない研究室で、その扉が少しだけ開いている事に不審を覚え、そっと覗き見たその先で──。
本棚に背を預けた市丸と視線がぶつかった。
イヅルの視線の先で、市丸の口角がゆるく弧を描き、ゆっくりと視線が落とされる。
その先にあったもの…それは。
足下に跪き夢中で市丸のものをしゃぶっている一護の姿だった。
「ん…ふ…。んん…」
口を大きく開け、市丸のものを頬張っている一護の姿──。
ジュボっと音を立ててそれを吐き出し、今度は舌を使って自ら育て上げた屹立を舐め上げる。
時折甘く鼻を鳴らす一護に、市丸の咎めるような声が静かに落とされる。
「一護…。声出したらアカン。誰かに見られるかも知れへんで」
「……ん……」
密やかに囁かれるその声にコクリと頷いた一護の口に、市丸が再びペニスを突き立てる。
イヅルが見ている事など気づきもせず、男の男根を美味しそうにしゃぶる一護。
その光景に、イヅルの脳裏にあの日の一護の姿が甦った。
自身に絡みつく一護の舌。口腔の熱さ。淫靡に蕩けた表情。
イヅルの精を顔中に浴びてうっとりと微笑む一護の顔は、直視できない程の艶めかしさだった。
今目の前で、市丸のものを含みながら快楽に溺れる一護は、あの時よりも更に婀娜めいて、美しさを増していた。

結局、そこでイヅルに出来た事は、その扉を静かに閉めその場を去る事だけだった。
もう…一護には何を言っても無駄なのだ。
あの二人の間に割って入れるものは、きっと何もない。
距離も時間も人間も──。あの二人を隔てる妨げになどなりはしないのだ。
そして、市丸はもう二度とそれを許す気はない。
一護が再び正気を取り戻した時には、絶対に止めようとイヅルは思っていた。
どんなに一護が拒否しても。そして、どれ程市丸が怖い男だと知ってはいても──。
イヅルだとて、一護の事を愛していたのだ、本当に。
それが……。たった一瞬で、一護のあの表情で、全てが終わったのだと知った。
そしてこの先、今と同じ位置で一護の側に居続ける為には、全てを許容し自分の無力感に打ちのめされながら…それでもこの立場にしがみつく自分の狡さを受け入れるしかイヅルには残された道はなかった。


『あの人が望んだからなのだろう』と──。
そう力なく言うイヅルに、一護は薄く微笑みながら頭を振った。
市丸が日本での研究期間を終えると同時に一護も市丸と共に渡米し、向こうの大学に入る。
そして将来的に一護は市丸の助手として、ラボに入る。
それが市丸が示した一護の未来図だったが、一護自身市丸から言われるまでもなく、そうする事に決めていた。
ほんの一時でも離れていたくない。たった一瞬でも、自分と共有する時間がなくなるのは嫌だ。
その願いを可能にするには、仕事でもプライベートでも共に居ること。市丸に必要とされる存在になる事。
今回一護が研究室入りを決めたのは、一護自身そう願っての事だった。

ずっと目を向ける事をせずに来ていたが、イヅルの気持ちは薄々ながらも一護は気がついていた。
そしてあの日。イヅルの精を受けながら、それは確信に変わっていった。
イヅルが一護を大事に思ってくれているというのは、有難いと思ったし、そしてその気遣いに救われていたのも本当だった。
でも…。どんなにイヅルが自分を愛してくれていても──。
それを、自分は決して受け入れる事はない。
恐らく、イヅルのような人間こそ人を幸せにできる人間なのだとそう思う。
大事に大切にされ、豊かな温かな愛情を注がれる。世の中の全ての不幸から限りなく自分を遠ざけてくれるような…そんな愛。
けれど…。それが人が望む幸福の証だとしても、自分がそんな愛情を望んではいないと言うことも一護には分かっていた。
市丸の愛は、決して人を幸福へと導くものではない。
傍目から見れば、市丸の愛情は異常としか言えないものであったし、そしてそこには『幸福』という文字の欠片もない。それでも……。一護にとっては、その異常ともいえるべき愛情こそが至福となりえるのだ。
どんなに言葉を尽くしても、きっと一護と市丸との関係は、イヅルにも…他の人間にも理解できないだろう。
今一護が普通にイヅルと会話できているとはいえ、一護の身体は…精神は…未だ深い渇望の中にいた。

「イヅルさん…。今の俺…どう見える…?」
「え…?」
一護の問いかけの意味が分からなかったように、イヅルが一護を凝視する。
今日の…今の一護は、一見すれば今までのイヅルが知っている一護とは何の違いも見受けられないだろう。
いつも通り元気に明るく言葉を交わし、他人に触れられる事も性的な意味に捕らえる事なく、単なるスキンシップの一環として普通の男子のように軽く受け流している。
あれほどまでに男の手で快感を見出していた身体の片鱗も残さず、今目の前にある一護は至って普通の男子学生でしかなかった。
だが、一護の中身は…イヅルが想像も付かないような状態にまで変貌を遂げていた。

「こっち来て…」
クイッとイヅルの手を引いて一護が人目に付かないよう大木の影にイヅルを誘う。
そして、呆然とするイヅルの胸に顔を預けながらそっとイヅルの手を腰からボトムの中へと滑り込ませた。
「い…一護くん…?」
驚いて手を引こうとしたイヅルを、一護の手が押しとどめる。
「ホントは…いけないんだけどな…」
そう呟いて、一護はイヅルの手をそのまま下着の中へと潜り込ませた。
「一護くん…っ!?一体なにを…」
「そのまま…触って…。イヅルさん…」
一護の言葉に戸惑うイヅルの指先を、自身の後肛へと導く。
そして──。
「あ……」
「…わかる…?」
イヅルの指先がそこに触れた瞬間、漏らされた声に一護がクスリと笑った。
一護の後肛から伸びる細いコード。その存在に気がついたイヅルがまさか…というように目を見開いた。
慌てて手を引くイヅルを今度は止めることなく、一護は驚愕の表情を浮かべたイヅルをじっと見上げた。
「ゴルフボールくらいの玉が繋がってんの。三つ…四つかな…ナカに入ってんだ今…」
一瞬だけ自嘲するような笑みを浮かべて、淡々と言う一護の姿をイヅルが信じられないものを見るような眼で見る。
そして、漸く混乱が収まったのか、イヅルが声を張り上げた。
「…何てことを…っ!あの人は……っ」
「違うんだ、イヅルさん。聞いて」
「何が違うんだいっ!こんな事…」
「イヅルさん、落ち着いて。無理矢理とかじゃないから…」
「一護くん…?」
怒りに顔を青ざめさせたイヅルの手を一護が引く。
今の自分の状況を知らせる事に恥ずかしさを覚えない訳ではなかったが、口だけで語るよりも一番手早い方法はこれしかないと一護は思っていた。
「俺さ、今普通にしてるように見えるだろうけど、なんか…まだ回路イカレたまんまなんだ。イヅルさんも
もう知ってると思うけど、俺今までずっと抑え込んでたものが解放されて…どっかオカシクなってんだよ」
「でもそれは…、あの人が…!」
イヅルの言葉に、一護はフルフルと首を振る。
「違う。本当にギンは何もしてないよ。ただ…暴走する俺の身体抱いてくれてただけ。まあ…そりゃ普通で言えばヘンなトコ一杯あんだけどさ。でも…俺の性癖…イヅルさんももう分かってるだろ…?」
こういう話をまさかイヅルとする日が来るとは思ってはいなかったけれど…。
でも、理解はしてくれないまでも、巻き込んでしまった以上、一度きちんと話はしなければと一護は真剣な眼差しでイヅルを見上げた。
「ごめんな。気持ち悪いよな、こんな話。でも分かってくれとは言わないけど、俺の今の状態は…ちゃんと話さなきゃ分かんないだろうから…」
「一護くん…」
「イヅルさんが会った時と比べたら大分マシにはなったんだけどさ。あの時は本当にぶっ飛んでたし…。
でも今も実はさして変わってないんだよ。こうでもしてないと…俺の身体暴走して…狂っちまうから」
そう言って一護はそっと目を伏せる。

市丸の元に戻ってから、あの嵐のような激情の日々を経て漸く正気を取り戻したかに見えた一護だったが、その正気を繋ぎ止める糸はまだ酷く危ういものだった。
今こうして復学するに至るまでの一護の状態は、本当に酷いものだった。
ほんの僅かな間でも市丸に触れられないだけで、容易に暴走する身体。
同じ家に居ても市丸の姿が見えないだけで、泣き喚き、暴れ出し、狂ったように市丸の名を叫び続ける。
繋がっていないと落ち着く事さえできない。
事が終わり、市丸のものを抜かれる時ですら、嫌だと喚き縋り付く。始終身体の中に市丸を受け入れていないと、我慢ができない。
あのまま…市丸から与えられる快楽だけに塗れて狂気の淵にいた方が、本当の意味で自分は幸福だったのかも知れない。けれど、それもまた、今の状況ではそのまま狂う事すら自身に許してはくれなかった。
一足早く大学に戻った市丸の不在──それが、こうして一護を正気へと無理矢理戻す事になったのだ。
どんなに市丸を繋ぎ止めて置きたくても、仕事を持つ市丸はずっとこの先一護の側だけに居るわけにはいかない。
一護が本当の意味で片時も離れずに市丸の側に居る為には、きちんと正気を取り戻し将来的に市丸の側に居られるよう努力すること。それしか方法はないのだと一護自身気がついたのだ。
そして…暴走を起こす一護の身体が、精神が狂いだしてしまわないよう一護に与えられたものがこれだった。

「本当は…ギンはこんなモンは使いたくないんだよ。あいつも俺も…独占欲異常だからさ。たとえオモチャだって分かってても、あいつにとっては自分以外を受け入れてる俺なんて許せないはずなんだ…本来なら。
でも、それをギンは今、俺の為に我慢してくれてるんだよ。俺だって、本当はギン以外は嫌だ。でも…今の俺のココ…何かしゃぶってねぇとダメなんだよ…。一旦身体が暴走しだすと、教室でもどこでも…誰彼構わず突っ込んでくれって叫びそうになるんだよ」
いっそあからさまな言葉を使ってそう言う一護に、イヅルは顔を赤くしたまま眉を顰めて俯いた。
「こうしてる今ですら耐えられねぇんだ。そういう奴なんだよ、俺」
「一護くん…」
「こんな俺ともう関わりたくないってんなら、それは仕方ないって思う。でもさ…これだけは分かってくれねぇかな。俺は元々こういう奴なんだ。だから…ギンの事だけ悪く思わないでくれ。イヅルさんには理解できないかも知れないけど…幸せなんだ俺、今が」
「そんな…こと…」
一護の言葉にイヅルが項垂れたまま頭を振る。
あの時──あんな場面にイヅルを引き入れてしまった事は本当に済まないと思う。
できれば見せたくなどなかった。でもそれは…市丸が決めた事だ。
そして…一護にも、それがどういう意味を持つのかは正しく理解していた。
狡い、とそう思う。
こんな言い方をすれば、イヅルはきっと一護からは離れられない。
たとえ心の何処かで…ほんの少しでも、一護を見限ろうとしていたとしても。
市丸以外はいらない。
けれど…、その市丸と居る為に、自分にとってきっとイヅルのような存在は必要になる。
今も、そして遙か未来でもきっと──。
そして、そう思ったからこそ、市丸はイヅル引き入れる事に決めたのだ。


「一護ちゃん、話終わったん?」
背後から聞き慣れたはんなりとした声が届く。
「ギン……」
一護の背後からそっと抱きしめる腕。
それに抗う事なく身を任せて一護は目の前のイヅルに視線を向ける。

ごめん…イヅルさん……。

自分の狡さは、自分が一番良く知っている。
欲しいのは…求めているのは市丸だけ。
この腕がなければ…もう自分は生きていけない。

「一護…」
前に回された手に頤を上げられて市丸の顔が近付く。
与えられる口付けを貪りながら、諦めと熱の篭もった視線を受ける。

「なあ…イヅル…。これからも一護ちゃんの側…居ってもらえるやろか」

口付けの合間に、そう囁く市丸の声。
その声に、微かに頷くイヅルの姿を、一護は蕩けた視線の端に捕らえていた。




end


※一護ようやく正気に戻りました。って言っても中身は激しく壊れてますが…。
とりあえず、一番可哀想なのはこんな二人に関わってしまったイヅルだと言うことで。
まあでもいっか。イヅルだし(笑)
この話ではオモチャとか使わないーと言っておきながら、ちゃっかり使っちゃいました。
ただ、一護も言っていたように、本当はそんなもの使いたくない人です。この話の市丸さん。
道具で感じる一護を見て悦ぶというよりも、そんなもので感じる一護が許せないと思う人なので。