過心
───[かしん] 他人に災いを加えようとする心。害心。───
「んっ…はぁ…っ」
互いに舌を絡め合って、深い口づけを堪能する。
子供の、羽の様な柔らかな舌が一護の口腔を余すところなく犯していく。
「これだけでイけるんちゃう…?」
一旦唇を離されて耳元で囁かれると、それだけで一護の身体はぶるりと震えた。
「ん…、かも……」
既に一護の屹立は湯船の中で硬く張りつめていた。
それを自覚して一護はギンの問いかけにコクリと素直に頷く。
甘く、深く、根こそぎ奪われるような口づけ。
快楽にどこまでも素直な自分の身体に一護は若干の呆れと共に、ふうっと息を落とした。
このままなし崩しに行き着く所まで行ってもいいのに…とそう思って、さすがにそれは節操がないなと自分でも呆れた。
ギンが一護の事を欲しているのは、当然一護は知っている。
子供ではなく、男の目で一護を見ているという事も。
そしていずれ…この子供の言う通りに、自分は彼の欲望の全てを受け入れるのだろうという事も。
でも。それを許すにはまだ早いと、冷静な自分はそう思っていた。
目的の為に。自分の欲望の為に。この身体を使う事に罪悪など感じた事はない。
その行為がどんなものであれ、そしてその相手が誰であろうと。それが激しければ激しい程…淫らであればあるほど、相手は一護に夢中になり離れられなくなる。身体の傷など放っておけば癒えるし、その行為で心が傷つく事もない。
一護自身に変質的な愛情を寄せる相手ほど、それに応えれば相手は深みに填り抜け出せなくなる。
そして、この子供も───。
本質的な意味合いに於いては、今までの相手となんら変わる事のない相手のはず…だった。
なのに───。
溺れそうになる。
まだ年端もいかない子供の口づけにさえ、感情は波立ち、皮膚は泡立つ。
戒めたのは、何も大層な理由があったからではない。
ただ…怖かったのだ。自分が。そして、目の前のこの子供が。
今まで誰にも抱いた事のない、この感情の行き着く先が───。
だから。狡いと知りつつも誘いを掛けた。
この場で、この自分の身体に溺れて目的を見失うようであれば、すっぱり切り捨ててしまえると。
ギンが本当に欲しているのは、死神としての地位でもなければ今拘っている『副官』でもない。
この子が本当に欲しているのは、自分の全て。
今まで誰も──一護ですら踏み込んだ事のない箇所にまで、この子供は手を伸ばし奪い取ろうとする。
だから今、身体を拓く事でそれを砕いてやろうとしたのに。
与えられる安い快楽に流されて、その指針を狂わせてやろうと思ったのに。
そんな一護の胸の内すら見抜いたように、ギンは頑なに首を振る。
そしてそれにどこか安堵する自分が居る事も一護は感じていた。
「──触れてもええ?」
「ダメ…」
耳朶を這い回る唇から潜り込んでくる誘惑。それに一護は一瞬頷きそうになりながらも、首を横に振った。
拒否の言葉を吐いた時点で、ふと気付き僅かに自嘲した。
触れさせ溺れさせる事が本来の目的であったはずなのに、と。
いつの間にかすり替わっている。
まだ、触れられたくない。暴かれたくはない。
それでも快楽の為か自身の為か、それを望む自分が居る。
拒絶を吐くのは自身の為。そして、ギンの為。
暴かれたくないと頑なに拒む自分に、この子供を見限る理由を与えないようにと──。
「なら…自分でシテ」
「…ん……」
再び落とされる声に静かに命じられる。
それに従うように、一護はそろりと張りつめた自身にその手を伸ばした。
まだ少年特有の少し高めの声。でもそれに艶と甘さが乗ると、途端にその声色は様相を変える。
年端も行かないその声に逆らう事などできなくなってしまう。
元々閨の場に置いて、相手に主導権を握られるのは嫌いじゃない。
ただ何も考えず、快楽にだけ身を投じていられる。
相手に男を選ぶ事が多いのは、利用価値と散々覚えさせられた身体の快楽も去ることながら、
単純にそれが楽だからだ。
「あ……、───め…ダメ…、ギン……っ」
先端からトロトロと零れ出る先走りの液を湯が浚っていく。
それでも、湯と混じり合う淫液が次第に粘り気を濃くしているのが触れる指と陰茎に感触として伝わってくる。
顔中にギンの口吻を受けながら、次第に頭の中が白く塗り替えられていく。
その感覚に身を任せながら射精に向けて手の動きを速めた一護の耳に、ギンのせっぱ詰まったような声が漏れ聞こえてきた。
「…アカンわ…、ボクもイきそうや…」
ボソリと零される声に、ふと閉じていた瞳を開いて目の前のギンを見上げる。
ここまできて何の意地だかは知らないが、手淫でもしているのだろうと思っていたギンは、死覇装すら脱いでいず、自身にすら触れてもいなかった。
きっと本当は我慢の限界なのだろう。
だが、彼の思う所がきっとそれを許さないに違いない。
その少年特有の頑なさに思わず笑みが零れた。
「──ギン……」
湯気でしっとりと水分を含んだまだ真新しい死覇装。
その袴を掴み一護が引き寄せる。
「…一護ちゃん…?」
「いいから…。俺が欲しいんだから…黙ってろ…」
そう言って袴の腰紐を手早く解き重くなった袴を滑り落とすと、一護はパンパンに張りつめたギンのものを口に含んだ。
「…ちょ…、なにしてんねや…っ」
その一護の行動に、珍しくギンが本気で慌てた声を上げた。
「一護ちゃん…、アカン、てっ!離し…っ」
ピチャピチャとまだ若い陰茎を口内に含み舐め回す。
視覚からも官能を煽るように、時折離して上目使いに見上げ舌を使ってゾロリと舐め上げる。
その間一護の指は、今にも爆発しそうなペニスを通り越して、後ろの蕾に差し入れられていた。
「ん…、ん…ふ…」
甘く鼻を鳴らしながら、ギンのペニスと自身の指を同時に味わう。
後ろをかき回す指から漏れ聞こえる音が、湯船の中で届くはずもない一護の耳に錯覚として聞こえてくる。
「一護ちゃん…」
最初は戸惑い抵抗を示していたギンも、次第にそんな余裕もなくなったのか、一護の髪を掴み激しく自身を衝き入れてくる。
ガツガツと音がしそうなくらい激しく口内に衝き入れられて、一護の表情が恍惚に蕩けた。
「…アカン…」
そうギンが呟いたと同時に、口内のペニスが一際大きく膨らむ。
ドクンと音がしそうなくらい硬く震えたペニスは、その瞬間一護の口内に青臭い精液を吐き出した。
「……っ」
「ん、く……っ。ん、ん…」
コクコクと喉を鳴らしてそれを飲み込みながら、一護も自身の中に深く指を突き挿れ、身体を震わせて達していた。
「ん…あ…、ぁ…」
恍惚とした笑みを浮かべて、口内に含んだギンのものを吐き出す。
たらりとギンの鈴口と一護の舌に白濁としたゆるい糸が引かれる。
快楽に塗れた淫蕩な表情でその糸を辿るように舌を伸ばす一護に、ギンの唇が綺麗に弧を描いた。
「…まだ、や…」
「…あ……」
些か乱暴に髪を掴まれ上向かされる。
トロリとした表情でギンを見上げる一護の顔に、次の瞬間自身を扱きながらギンが白濁とした精液を振りかけた。
「ふ…、ああぁ……!あ…はぁ…っ…」
淫蕩な笑みを浮かべながらそれを受けて再び小さく達した一護を、蒼い瞳が嗤う。
「ホンマの好きもんやなぁ…。ええわ…、ボクがホンマに抱く時には、その身体ちゃあんと躾直したるわ…」
精液に塗れた一護の顔にペニスを擦り付けながらギンが告げる。
頑なまでに一護に触れようとせず、戸惑いさえ見せていた子供は、一護がその手を伸ばした瞬間その姿を変えた。
たった一人の、一護だけの男に。
「ん……。ギ…ン…、待って…る…。だから…早く…ぅ…」
「…やから言うたやろ…。我慢できんくなるんは一護ちゃんの方やて…」
ヌルヌルと市丸のペニスで顔中に精液を塗り込められながら、囁かれるその言葉に。
一護は知らず涙を零して、『早く……』と、そのただ一言だけを譫言のように繰り返していた。
end
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