※ 特に本編とは関係のない与太話。
一応、五章・終幕の後くらい。
なんだか最初の方、平子さんの名前ばっかり出てきますが、特に関係ありません。
うん、エロが書きたかっただけなんだってば!

刻の振り子 ── 閑話休題 1 ──  




居間の卓袱台で、ぼんやりと茶を啜りながら、一護は物思いに耽っていた。

思い出しているのは、先日の平子と一件だった。

平子とのあんなやり取りは、もう何度目だろう。
なぜ、あそこで頷かなかったのだろうかと一護は一人自問する。
別に寝てもよかったのに…と振り返っていつも思う。
特に嫌いな訳でもないし、嫌悪感も別に沸かない。…というより、そこまでの感情など平子にはない。
まあ後々面倒だと思うが、それはそれで……とそこまで考えて、そうか、結局その後が面倒だからなのかと思い至る。
あの平子の鋭さが、一護が平子を遠ざける要因の一つになっていた。
護廷の誰一人として、疑いの目を向ける事のない藍染の本質を、朧気ながらにでも気づいたのは平子ただ一人だ。
はっきり言って、敵に回れば面倒だと思う。
怖いとは微塵も思わないが、今はまだまずい。
たぶん、時がくれば真っ先に敵対するのは…そして犠牲になるのは、平子だろうと一護は踏んでいた。


直接の部下だった頃から、一護は平子からずっとアプローチを受けていた。
正直、鬱陶しいくらいに。
その頃を思い出して、ふとギンの顔が頭を過ぎった。

……ああ、なんとなく似てんだ。そういうトコ………。

だが、似てはいても平子とギンは決定的に違う。
ギンは一見押しが強いし、所構わずだが、本当に一護が厭がる事は絶対にしない。
勘が鋭いのか、近い部分があるのか。その辺のタイミングは一護から見ても見事なくらいだと思う。
意識してやっているのかどうかは些か不明だが、そういう駆け引きはギンは上手い。
まだ子供のくせに……。
だが平子は。
一護にとっては若干…というか、かなり平子の方が面倒臭いのだ。
出会った頃は、本当に、まんま子供だった。
本質は今とさして変わってはいないが、とにかくアプローチが派手すぎで煩い。
躱されても、無下にされても。最終的には張り飛ばしても。
次の瞬間にはブツブツ言いながらもまた同じ事を繰り返す。
大人になるに従って、少しはマシにはなったが、結局繰り返しているのは同じやり取りだ。
ここまで長い間ずっと、変わらずに「好きだ」の「愛してる」だのと言い続ける根性にはいっそ頭が下がる。
平子のある意味の無神経さは、それが彼のスタイルだと一護にも解っている。
本来平子は決して無神経な訳ではない。それどころか、ありとあらゆる所に神経を張り巡らせるだけの頭の良さと緻密さを兼ね備えている。
だが、どうしてこうも一護に対してだけはそれが働かないのか。
それが惚れた欲目なのだと理屈では解るが、正直一護にはそれが理解できなかった。
今、つかず離れずの間に平子を置いているのは、その平子の「欲目」が都合がいいからだ。
自分を偽る事に関しては、一護には絶対的な自信がある。
平子如きに見破られる可能性など万に一つもない。だが、どんな所にも綻びはある。
一旦平子と寝てしまえば、彼は間違いなく一護を独占しようとするだろう。
平子が信じる『鈍くて純粋な一護』は、一旦恋人関係に陥った相手を裏切る真似はできないし、そんな事すら考えも及ばない『純粋な存在』だ。
平子と寝るのは構わない。だが、その平子の思い込みが結果的に彼を拒否せざるを得ないというのは、平子にとっては皮肉以外の何者でもなかった。



「……一護ちゃん…。さっきから何考えてはるん?」
ぼんやりと物思いに沈んでいた一護に、ギンの声が届く。
それに俯いていた顔を上げれば、首を傾げて不思議そうに一護を見やるギンの瞳とぶつかった。
「……別に……なんでもねぇよ…」
本当に他愛もない事だ。
先日の平子とのやり取りを思い出して、つらつらと思考が遊んでいたに過ぎない。
だがギンは、面白くなさそうに顔を歪めて、口を尖らせた。
「ボクと二人で居る時に、一人で考えこまんといて。ただでさえ一護ちゃんと一緒に居れる時間少ないんやから」
むぅっと口を尖らせるギンは、まさしく子供だ。
その姿に、一護は思わずクスリと笑みを零した。
「お前が勝手に押しかけてるだけだろうが。ウチには来るなって何度言っても聞かねえし……」
呆れたようにそう零す一護に、ギンはふてぶてしくも言い返した。
「別に今更やん。ボクが一護ちゃん至上主義で、心酔してる言うのはあの一件で護廷中に知れ渡ってもうたし。モノの解らん可愛い新人隊士が、懐きまくって家に行くくらい別に何もおかしないやろ?」
ニィっと笑ってそう言うギンの頭を一護が叩く。
それに「アタァ……。もう…乱暴なんやから…」とブツブツ零すギンに、一護はヤレヤレと肩を竦めた。
「お前のせいでボロが出たら、どうしてくれんだよ」
そう言ってギンを睨み付けると、ギンは呆れたような顔をした。
「たかがこんくらいでボロが出る言うんやったら、今まででボロ出まくりやと思うで?なに心配してんの、一護ちゃん」
そしてそれに続く言葉に、一護は思わずギンの顔を凝視していた。
「大体、一護ちゃん他の奴よりボクに厳しいやん。もうちょっと優しゅうしてくれてもええん違う!?」
文句のようにそう言うギンに、一護は先日平子から言われた言葉が頭を過ぎっていた。

『なんのかんの言いながら、お前かて目ェ掛けてるやん』

一護のギンに対する態度を見て平子が言った一言だ。
それに、その時は思いっきり反論したのだけれど。
だが平子は、「そんな事ないだろ」という一護の反論を聞き流すようにたたみ掛けた。
『アホ言え。お前昔っから、目ェ掛けてる奴ほど厳しいやんけ。そんなん経験上よう解っとるわ』
『はあ!?…んな事ねえだろう?』
『やから、経験やて言うてるやんけ。お前、俺にどんだけ厳しかったんか、忘れたんか?』
『一体いつ、俺がお前に目を掛けたよ……』
呆れたようにそう零せば。さらに呆れた顔をして平子がフンっと吐き捨てた。
『自覚がないってこの事やな。あん頃の俺はもう…毎日毎日怒られるんが怖ぅて泣きながら暮らしたもんや』
『そんな愁傷なタマかよ、お前が』
アホらしいと、それっきり平子の言葉を切り捨てて、一護はさっさと自室に戻るべく歩きだす。
その後ろから、いつもの如く平子の文句が聞こえてくるのを、一護はパッキリと無視をした。


その一連のやり取りを、今のギンの台詞で思い出した。
別にギンに対して特別な態度を取っているつもりはない。
どちらかと言えば、一護の姿を見つけては人目も憚らず懐きまくり、くっついて離れないギンをあの手この手で引きはがしているというのに。
「…もう、いい……。お前もう、俺に引っ付いてくんな」
たとえそれが平子の思い込みだったとしても。一護がギンを特別な目で見ているというのは、今の状況に於いてマイナスにしかならない。
できれば人前ではあまり関わりたくはないのに。
大体、所かまわず引っ付いてくるギンが悪いのだ。自分に落ち度など絶対にない。
そう思って、一護は目の前のギンにきつい視線を向けた。だが、下手にそれに慣れてしまったギンは、いつものようにひょいっと肩を竦めただけだった。
「そんな事言うたかて…。今更、路線変更きかへんもん。ええやん、ボクが勝手に懐いとるだけやし。
言うとくけどな、ボクほどあからさまやないにしても、ボクとおんなし行動取りたい奴なんか山ほどおんねんで?」
「だからその"あからさま"が迷惑だっつってんだろ……」
「みんな遠慮してもうて、単に前例が無いだけやん」
こうやって屁理屈を捏ねだしたら、ギンは止まらない。
ああ言えばこう言う。そして、絶対に折れない。
「──ギン」
黙らせるには言葉よりも態度が一番とばかりに、一護はじっとギンの目を見据えて諫めるように名前を呼んだ。
それにやっとギンは、これ以上は一護の機嫌を損ねるだけだとようやく口を閉ざす。
そして、フンと一つ鼻を鳴らすと、再びニッコリと一護に笑いかけた。
「まあ、もうええやん。それよりも…エエ事しよ?……夜は短いんやし」
「どこで覚えんだよ、そんな誘い文句……」
まったく。切り替えが早いというか何というか……。
元々ギンが訪ねてくる目的など一つしかない。
別にそれには今更一護も抵抗はないのだが……。
「なに、妬いてはるの?」
クスリとギンが笑みを深める。それに、「バカ」と一言返して、一護は自分からギンを引き寄せた。


ピチャピチャとミルクを舐める猫のように、一護はギンの屹立に舌を這わせ、音を立てて舐めしゃぶっていた。
あぐらを掻いたギンの前に屈み込み、一心にギンのものを育て上げる一護の姿は酷く淫猥だった。
そろりとギンが一護の鮮やかな髪に手を差し入れる。
そのまま褒めるようにゆっくりと撫で上げると、一護は毛繕いされる猫そのままに気持ちよさそうに喉を鳴らした。
「美味い?」
ニィっと口角を上げていやらし気にそう囁けば。
「ん…美味しい…」と、舌を幹に這わせたまま一護はチラリとギンを見上げた。
「……アカン……」
「…なに……。感じた?」
婀娜めいた笑みで挑発するようにチロっと舌で竿を舐めあげる一護に、ギンの欲望がダイレクトに刺激されまた一回り嵩を増す。
その反応が楽しいのか、一護は態とギンを刺激するようにそそり立つペニスに頬をすり寄せた。
「……一護ちゃん…。あんま刺激せんといて」
困ったようにそう言うギンに、一護が笑う。
「何言ってんだ。刺激しないでどーするよ」
クスクスと笑いながら、一護はパクリとギンの先端を口に含んだ。
「やから……っ!咥えたまんま、笑わんといて…!」
「んーーーー」
そのままジュボジュボと抜き差し始めた一護に、ギンはひとつ肩で大きく息をして、張り詰めた熱を少し逃がすと、ゆっくりと一護の髪を撫でた。
「ん……っ」
後頭部から項へと指を滑らせると、感じたのか一護の身体がピクリと揺れて可愛い声を漏らす。指の腹で顎のラインを伝い耳朶をなぞり、耳の淵をゆっくりと擦り上げると、一護はブルっと身体を震わせた。
「……や……、くすぐったい…って……」
ギンのペニスを吐き出して、子供のようにフルフルと首を振る一護に、お返しというようにギンが笑った。
「擽ったいだけやないやろ…?」
一護の顎を指でクイッと持ち上げて視線を合わせると、思ったとおり一護の瞳は膜を張ったようにとろりと蕩けていた。
そのまま膝立ちになり、体勢を変えようと一護の腕を取ると、一護は玩具を取り上げられた子供のような顔で、嫌だというようにギンを見つめたまま首を振った。
「一緒にしたらええやん…」
そう言って一護を起こしギンが横臥すると、ギンは一護の足を持って自分の上を跨がせる。所謂シックスナインの格好だ。
「…して欲しいんなら、自分で袴落とし?」
既に膨らみかけた一護の股間を一撫でして、ギンが一護に命じる。
それに素直に頷いて、一護は震える手で袴の紐を解いた。

普段は絶対専制君主の一護だが、この時ばかりは立場は逆になる。
こうしてギンから優しく命じられると一護は逆らえない。たとえそれが、どんなに酷い事でも…どんなに恥ずかしい事であっても。
「ほら…足開いて……。ボクによう見せて……」
甘く囁かれる言葉。それがまるで魔法のように、一護を虜にしていく。
ぞくんと、身体が震えた。
「あ……。ギン………」
ギンの目の前にふるりと震える一護のペニスが晒される。そこはすでに腹に付くくらい反り返り、先端から滑りを帯びた蜜が竿を伝い落ちていた。
「やらしいなぁ…。まだ触ってもないのに、もうこんなにしてるんや」
クチュクチュと、態と音を立てて先端のグランスを親指の腹で擦りあげる。
「う…ぁ……っ」
ビクンと背を逸らして、一護の顎が綺麗に弧を描いた。
溢れ出る透明な先走りがギンの指を濡らし、手首にまで伝う。
「あーあ。ボクん指、もうベトベトやで」
態とその状況を口に出すと、一護はそれにすら感じたように首を振った。
「……ギン………」
指で触れるだけで一向に先に進もうとしないギンに焦れたのか、一護がギンの名前を呼んだ。
だがギンは、腰を落とそうとする一護を片手で押しとどめて、ゆっくりと一護の幹をなぞり上げた。
「して欲しかったら、何て言うん?」
「や………、もう……して……」
「して、や分からんやろ。ちゃぁんと言わな」
「だから……っ、して……咥えて……ギン……もう……」
せっかくの表情が見えないのは残念だったが、声で一護が涙目になっているのはわかった。
こうして感じさせるだけ感じさせると、一護は脆い。わずかな愛撫ですら、一護はたまらない刺激となりより一層深い愛撫を求める。
ギンの身体全てで愛してやる事ができない分、ギンはその視線で、言葉で、指先で、一護が感じるポイントを的確に突く。
「アカンよ。ちゃぁんと言い、言うたやろ?言葉は明確に出さんと、なぁんも伝わらへんで」
「…………っ」
あくまではっきり名称を出せと言うギンに、一護の言葉が詰まる。
特別乙女思考な訳でもないし、普段男同士での話の中で口にする分にはさらっと言えるのだが、こんな風に自分が求める時に言うのはやはり羞恥が伴う。それを解っていて、ギンはそれを強要する。
だが、言わなければいつまでたってもこのままだと、一護はクッと唇を噛むとゆるゆると口を開いた。
「触って……。俺のちんちん…舐めて…咥えて……イかせて」
「ふぅん…。ココだけでええの?もっとして欲しいところ、あるんやないの?」
なあ……と、ギンの指がそろりと会陰を辿り、ヒクヒクと収縮する蕾に押し当てた。
「ひぁ……っ!あ…ああ……」
そこはもう妖しく息づいていた。ただ指を押し当てているだけで、ぱくぱくと口を開けた入り口はそれを咥え飲み込もうと誘う。
一護の尤も感じる場所。そしてその場所は、ギンの為にある場所でもあった。
「……や…っ、ギン…っ!ダメ……そこ…は…っ」
「なして?ほら、もう何もせんでもボクの指旨そうにしゃぶってるで。赤ん坊みたいに小さい口開けて、ボクの指チュウチュウ吸ってはる」
「い、や……」
「なあ…一護……?やぁらしいところ丸見えや。広げられて奥まで視られて…熱くてトロトロになった中、舐めまわして欲しいんやろ」
「だ…から……っ、だ、め……も……欲しく…なる……からぁ……」
言葉で嬲る合間にも、ギンの指は淵をなぞり、浅く潜り込ませクポクポと軽く抜き差しを繰り返していた。
第一関節が入るか入らないかの温い挿入。繋がる為の前戯にもならない程度の愛撫。それでも、一護の息は上がり閉じられなくなった口からは唾液がゆるく糸を引き、ギンのペニスへと透明な線が結ばれていた。
焦れている事を示すように、一護の尻が円を描くように回され、時折求めるように突き出される。
その度に、ギンは指を引き、一護の声を上げさせた。
「……めて………舐めて……そこ…も……。ゆび…、抜かないで…ぇ……」
ようやく途切れ途切れに一護が強請ると、ギンは一護の内股にチュッと唇を落として「ええ子」と囁くと、一護が求めるとおりに、指を少し押し込んでやった。
キュウと引き絞るような内壁の動きがギンの指に伝わる。
「一護、腰落として」
指を入れたままゆっくりと落ちる腰の動きに合わせて、ギンもそれを手伝うように腕を下げ、位置を合わせるとするりと舌を伸ばした。
「ん、あ……っ」
指を増やし左右にぱっくりと割り広げ、舌を差し入れる。一護の中はすでに、坩堝のように熱くなっていた。
舌を奥まで差し込んでひくつく秘肉を舐めまわす。その度に敏感になった粘膜は痙攣を起こしたようにヒクヒクと震え、ギンの舌に絡みつく。
ギンの唾液と一護の腸液がグチュ、ピチャ…という濁った水音を立てる。
「あああ───っ!あ・あ・あ……イイッ………、もっと………」
完全にギンの上に座り込んだ形で、一護の身体が弓なりに撓った。
腰を振り立て、与えられる快楽を貪欲に貪る。このままイかせてやってもよかったのだが、さすがにギンの方もこのままでは辛かった。
「一護、ほら、上のお口がお留守やで」
一護の腕を下に引いて、ギンの下肢へと促すと、快楽に蕩けた一護は素直にギンのものに手を伸ばし、口腔に咥え込んだ。
一護のものも限界が近かった。両方の指でぱっくりと広げていたアナルから片手だけ抜き出すと、ギンは一護のペニスを握り込んだ。
「…どないする…?こんままイきたい?それともボクに呑んで欲しい?」
ゆっくりと手淫を施しながらギンが訊ねると、一護は一旦ギンのものから口を離して、振り返った。
「……で……呑んで………俺の……。も…これ以上は……ダメ……だ……。後ろ……おかしく……なる……」
「わかった。やったら少しずれて。……そう」
くぽん、とギンが指を引き抜くと、一護は一瞬、名残惜しそうな顔をした。
それでも一護が言うように、これ以上は本当に持たないのだろう。
挿入を伴うセックスならばそれでもいいだろうが、一度ドライで達してしまえば中が満たされるまでの渇きは、たぶんギンが考えている以上のものがあるのだろう。
今この状態でも、きっと何日かは身体が疼いてたまらないはずだ。そしてきっと一護は、それを癒す為に他の誰かに抱かれるのだろう。
苦い思いを胸に、ギンは一護のペニスを舐めあげ、口腔に咥え込んだ。
胡桃のようなつるりとした鬼頭を舌と唇で丁寧に愛撫し、唇全体で竿を扱き上げる。
元から今にも爆発しそうだった怒張は、ギンの口淫でなお一層膨らみ先走りに苦いものが混じり始めた。
それでも、一護の体液はギンにとって甘美な蜜だった。
一護の身体はどこもかしこも甘い。肌も、滑る汗も、吐き出される体液も───吐息さえも。
ギンの方も限界が近い。それを分かっているのか、一護の方も丹念にギンの怒張を舐め啜り、ずっぽりと咥え込むと早いピッチで頭を動かしていた。
口の中の一護がビクンと震え、一瞬大きく膨らんだ瞬間、一護はギンの口に甘美な蜜を吐き出した。
それと同時に、ギンも一護の口の中に熱い飛沫を注ぎ込む。
二人が達したのは、ほぼ同時だった。
コクコクと喉を鳴らしてギンのものを残らず嚥下した一護は、残滓をちゅうっと吸い出すと、ようやくギンのペニスから口を離し、そのままゴロンと横になった。
「こら、一護ちゃん!いきなり離れんといて。びっくりして噛んでもうたらどないするん!」
放出したばかりの一護のものを口に含んだままあやしていたギンは、いきなり前触れもなくズルっと抜かれて怒ったように一護に言った。
「えーーー、そしたら、ブッ殺す」
「……なんでもかんでも暴力でカタつけるんヤメテ…」
そうブツブツ零すと、一護は一言「ウルセェよ」と言ってギンの文句をばっさりと切った。


ギンとのセックスは、確かに気持ちがいい。
いや、正確にはセックスとは呼べないものだが、それでも感じる深さが他とは全然違う。
だから……よけいにイライラも募る。

この俺を、欲求不満で死なす気か────!?

「この分じゃあ、最後まで行くのって時間の問題じゃね?」
ふうっと気だるそうに息を吐いてそう言う一護に、ギンはむっくりと起き上がって一護に視線を合わせると、いつものようにそこだけは頑なに首を振った。
「やから…何度も言うてるやろ?ボクがホンマに一護ちゃん抱くのんは、副官になってからやって」
「もういいよ…。今更、どーでも」
正直、ここまでしてしまえば後は同じ事だ。単に挿入するかしないかだけの差でしかない。
だが、それでもギンの中ではそれは大きな隔たりがあるようだった。
「まあ、確かに途中まででも同じやとは思うけど…。でもそれだけは譲られへんの」
「だからさ、挿れたいならさっさと挿れればいいじゃん。もう本当に今更だろ?」
そう言う一護に、ギンがクスリと笑う。
「なに。そんなに我慢できひんの?」
「そういう事言ってるんじゃねえ」
……いや、ほぼそうなのだが。中途半端で放り出された身体は苦しい。はっきり言って我慢の限界だ。
男を受け入れるのに慣れた身体は、単に射精するだけでは満足はできない。この身体の奥深くに自身を抱く男の欲望を受け入れて、ようやく満たされるこの身体。そういうセックスに慣れてきた一護にとって、ギンとの交わりは更に深い渇望を呼び起こすだけだった。
だがそれは、"ギンと"寝るかどうかというよりも、単純に身体の欲求だ。
それにギンは、解ってると頷きながらも「我慢して」と言う。
「ごめんな。中途半端で一護ちゃんが苦しいんはボクも解ってるんよ…。でもな、今一護ちゃんの事全部抱いてしもうたら、ボクがアカンようになんねや。そのまま一護ちゃんに溺れてまう。今ここで、一護ちゃんの全部手に入れたら、ボクそれだけで満足してまうような気ィすんねや。
…それは…一護ちゃんやって望む事やあらへんやろ?」
「……だったら、最初から手ェ出すなよ」
尤もな台詞をギンに突きつけて一護は軽くギンを睨んだ。
ギンが思う所は一護にだって解っている。いや、本能的に知っていた。
まだ認めたくはないけれど……。自分はギンを欲している。
そして、ギンに抱かれてしまえば、もう自分の心に嘘など付けない。
まだ今は───こうやって身体を重ねていても、何かあれば切り捨てられる『ただの部下』でしかない。

誰の事も、必要とした事などなかった。
藍染も東仙も、今の一護に取っては必要な存在だ。
だが、それはあくまで彼らが『使える』からであって、それ以上の意味などない。
自分にとって利用価値があるかないか。一護にとって他者との関わりは、それ以外にない。
だけどギンは───。
それとはまったく別の意味で、一護にとって『必要』なのだと自身の裡が訴えていた。
今はまだ、それを認めるのが……怖い。
それが示すものがなんなのか。その感情が何であるのか。もしかしてそれが人の言う『愛』という感情なのかは一護には解らない。
今までに、そんな経験などないからだ。
人としての心の有りようが解らない一護には、一つ一つ経験を繰り返し、そのたびに沸き起こる僅かな波に一々理屈をつけて推し量る事しかできない。
これが怒りなのだと。これが悔しさなのだと、嬉しさなのだと、悲しさなのだと。まるで観察するように、ほんの僅かばかりの自分の裡に興る波に名を付けて納得する事しか自身を推し量れない。
この僅かながらに興る波が『感情』というものだと『理解』するしか一護にはできないのだ。
その一護の有りよう全てを覆す存在。
理屈ではなく、流れていく『想い』に自分でも制御がきかない。
そして──それが怖い。
いっそこのまま抱いてくれたらいいのにと、いつも思う。
そうしたらきっと、何を考える事なく、その波に身を任せていられるのだろう。
「……抱けよ……。ギン……」
一護を見下ろす蒼い瞳にそう告げる。
その言葉は、懇願に近かった。
怖くて怖くて───。理屈で考えるほど混乱する頭。
それに頑なに首を振るギンに、一護は怒りすら覚える。
「……ごめんな、一護……」
一護を抱きしめてそう呟くギンに、一護は堪らず目を瞑った。
普段は『一護ちゃん』と呼ぶギンが、一護を呼び捨てるのは、閨の場だけだ。
立場も、年も……なにもかも無くなるこの瞬間だけ。ギンは一護を『ただの自分の相手』として、そう呼び捨てる。
「一護………。お願いやから、そないな事言わんといて…。ボクかて我慢の限界なんよ。こうして一護に触れてるんが、どんなに幸福で、辛いか……。ホンマは、こんまま全部ボクのものにしてしまいたいんよ。身体はまだ…子供やけど…、それでも一護を善がらせるくらいはボクかてできるんやで?……ボクかて、一護ん事、ホンマに欲しいんや……。ボクやって、ずっと我慢してるんよ。頭狂かしくなるくらい、我慢してるんや。──この、ボクが。一護に我慢させとるんは、ボクかてよう解っとる。中途半端な事するんやったら、触れるな言うんも尤もやと思う。せやけど、触れるんだけはもう止められへんのや。堪忍な、一護…。やから…お願いやから、煽る事は言わんといて……」
ギンの噛みしめる唇に血が滲む。壊れるほど強く抱きしめられた腕から、僅かな震えが一護にも伝わってくる。
知っている。解っている。今の自分達は、こうするしかないのだと。
これ以上、互いを求めてしまえば、その先に待つものは、破滅でしかない。

「……死ぬほど煽ってやる……このバカ……」
ギュッとギンを抱きしめてそう呟く。
それに、一護の頬に口吻を落としながらギンが苦笑した。
「ええよ。なんぼ煽っても耐えたる。……ホンマ、堪忍な。でも、一護ん為にも…そうした方がええんや……」
全て解っているというようなギンの台詞。
きっと、本当にギンは解っているのだろう。
溺れるのは、きっとギンだけではない。自分だってそうだ。
たった一人の腕さえあれば、全てが満足してしまえる。そしてきっと、今の段階でなら、あの計画すらどうでもよくなってしまうかも知れない。
ずっと遙か長い間、一護を支えてきたもの。
それが崩れてしまえば、きっと自身は崩壊してしまう。
ギンの愛を受けながら、きっと一護は壊れていくだろう。
それが、ギンには解っている。
そしてそれは一護にも解っている。解りすぎるくらいに。
今ここで、互いの熱に溺れる訳にはいかないと───。

「……時間、区切ってやろうか……?」
ギンが、自分の傍らに立つまで。
長く待たせるつもりはないとギンは言ってはいたが、はっきりいって、それを為し得るにはギンの実力も去ることながら、状況的に骨が折れることには違いない。あらゆる運が味方したとしても、普通で考えれば数十年は掛かるだろう。
だがそれにギンは、解っているのかいないのか、あっさりと頷いた。
「ええよ?でもせめて十年は欲しいなあ……」
「……んなに待てねえっつったら、どーすんだよ」
「……しゃあない。努力するわ」
普通の……それでも護廷では非凡と言われる存在ですら、遠い道のり。
本当に解っているのか。あっさりとそう言うギンに、言い出した本人である一護ですら呆れた眼差しを向けた。
「焦ってボロ出したら、捨てるぜ?」
「やから……、そんなヘマなんかせーへん言うてるやん」
そう言ってギンが再び一護の頬に唇を落とす。
まったく……。この自信はどこからくるのか。
でもきっと、ギンならやり遂げるだろう。それも完璧に。
ヤレヤレと若干の呆れと共に、一護は身体の力を抜く。
「──ギン……。もう一度……お前の……欲しい……」
「うん…。いっぱい呑ませたる……」
するりと、あやすようにギンの指が一護の頬を撫で上げる。
降りてくる口吻を受けながら、一護は自身の身体の熱にそのまま身を任せた。






   end



※仔ギンエロ第二弾?(笑) 
なんか、ずーっとこの辺の(五章あたり)話ばかり書いてますが、
なんとなく一番時間軸的に書きやすいんですよ…。
あ、第一弾は若干隠してます。 今回はもう…開き直って隠すのやめたw