
「一護ちゃんお粥さん食べれる?」
昼過ぎにようやく目が覚めた一護は、枯れまくって出なくなった声と、ズキズキする腰の痛みに
なんとか耐え、ひとしきり水分補給と市丸のマッサージを受けて、何も口にする間もなく、また
とろとろと寝入ってしまった
そして、漸く目が覚めると、時刻はもう夜に近い時間だった
さすがに腹が減ったと思っていると、一護の様子を確認しにきた市丸が、タイミングよく盆を持って
現れた
「ん、食う」
体を起こしかけて、昼間の痛みがぶり返すか?と思ったが、マッサージが効いたのか昼よりは
ずいぶん楽になっていた
「良かった 食欲はあるみたいやね」
そう言いながら、脇のナイトテーブルに盆をおくと、市丸がベッドに腰掛けた
「今日一日なんも食べてへんから、消化のいいもんにしたわ」
そう言って、一人用の土鍋のふたを取る
とたんに、ふわりと食欲をそそる匂いが辺りを漂う
それに刺激されてか、一護のお腹がぐうっと鳴る
「よほどお腹すいてたんやねぇ」
と笑う市丸にそっぽを向いてうるせぇとぼそっと呟けば、はいはいちょお待ちとまるで子供を
宥めるような返事が返された
木杓子で深めの器に少量取り分けると、そのまま手渡してくれるかと思っていた市丸が
レンゲに一口すくい冷ますようにふうふう息を吹きかけこともあろうに
「はい 一護ちゃん あーん」
と言ってきた
「バッ…バカかお前は!寄越せ!自分で食う!」
なにが、あーんだ どこの新婚カップルか!と言えば
「やってボクら新婚さんやもん」とのたまう
「ほら、まあええやん 誰が見とる訳でもないし ボクがやってあげたいんやからつき合うて?」
と今度は下手でお願いされてしまった
目の前には美味しそうなお粥
腹は思いっきり減っている
しかし、器もレンゲも未だ市丸が握ったまま
ここで寄越せと言っても断固拒否されるのは目に見えている
………仕方ない……
てこでも動きそうのない市丸を前に、一護は男らしく諦めた
どうせ何を言っても聞きやしない
甘えたりすかしたり…とにかくどんな手段を用いても結局自分のしたい様に持って行く
とりあえず、腹を満たすのが先だ、と思いぐるぐるしている一護を尻目にさらに「あーん」と言って
口を開けるように促す市丸に、一護は渋々口を開けた
市丸によって程よいくらいに冷まされた粥はそれでも熱かったけれど、ほんのりの塩加減と
卵の風味が想像以上に美味しくて、思わず一護は市丸を凝視する
「ん?」
その様子に市丸がきょと、と首を傾げるのに、一護は意外に思いつつ聞いてみる
「コレ…お前が作った…?」
およそ料理なんてできないだろうと思ったのに…、はっきり言ってかなり旨い
それにようやく合点がいったと云うように、市丸はいつものように口元を上げた
「ああ、それな 残念ながらボクやないよ」
さらりと答える市丸に、そうだろうな…と思いながら、はたっと思い返す
ちょっと待て?って事は…この家、今誰か他に居るのか!?
聞けば怖ろしい答えが返りそうで恐い
こんな情事の後も生々しい状態でとてもじゃないが他人に会う勇気はない
そりゃあここは市丸の家だが、俺の気持ちだって考えやがれ!
青くなったり赤くなったりして頭を抱えてうんうん唸る一護の様子に市丸は始め呆然とし
それから、ふっと笑みを深くする
「なんや一護ちゃん、誰ぞ居るんかて心配なったん?」
そう言いながら市丸が一護の顔を覗き込む
「え?……違うの…?」
「ああ、心配せんでええ 誰もおらんよ ボクと一護ちゃん二人っきりや」
その答えにほっとするも、じゃあ目の前のこれは何なんだと思う
どう見たって手作り
まさかお粥だけ飛んでくる訳じゃあるまいし
てか…出前…?
「あ、出前やないよ まあある意味そうとも言うけど…」
「じゃあ、どうしたんだよコレ」
コレと盆を指させば
「やから、届けさせたんや、ウチから」
さくっと市丸がとんでもないことを言ってのけた
「とりあえず、話はあとや ほら食べ」
呆気にとられる一護にレンゲに掬って冷ましては次々と口に運ぶ
機械的にもぐもぐと口を動かしながら、一護はもしかして自分はとんでもない世界に
足を踏み入れたんじゃないかと頭を痛めていた
「で?」
湯飲みのお茶を飲み干して、ようやく人心地がついたところで、一護が切り出した
「ん?」
「ん?じゃねえよ どういうことか説明しろ おら!」
今にも怒鳴り出しそうな勢いで一護が言えば、いつものように市丸は笑みを浮かべたまま
飄々とそれを受け流す
「まあまあ、落ち着き一護ちゃん ちゃんと説明するし」
その言葉に一護は眉間の皺を深くして「ホントだな」と念を押す
「ホントやって まあ物事には順番てあるやん はぁ…それにしてもお粥さんから
この話になるんは、さすがのボクも意外やった」
とブツブツ言い始める市丸に一護は先を促す
「んなことはどーでもいいから、さっさと吐け!」
「吐く…って、いややわぁ一護ちゃん さっきから何怒ってるん?」
「お前…俺にかくしてることあるだろ」
「まあ…そりゃ…山ほどあるけど……」
「山ほどかよっ!って、まあいい とりあえず、俺が聞きたいのはだな」
「うんうん 一護ちゃんが聞きたいのは?」
「……てめー、なにモンだ?」
「───…あいたぁ…… 直球できたね… 一護ちゃん」
「ウチってなんだ 届けさせたってどういう事だ?つーか、もういい!極道なのはわかったから
てめーの立場を名乗れ!今すぐ!」
市丸の態度に、だんだん腹の虫が治まらなくなってきた一護は目の前で苦笑を浮かべる市丸を
怒鳴りつける
「あー、もう…… まあ、そのうち話そ思てたから、まあええか
初っぱなから聞いたらショックかも思て、時期がきたら言うつもりしてたんよ」
この後におよんで言い訳から入るところがなんとも市丸らしいが、一護は
とっとと話せと言うように無言で先を促す
「まず……、…ごめん、順番に話させてな ちゃんと言うたげるから
まず、この家は確かにボクのんで間違いやないけど、常に住んどる訳やないってことや
で、ウチいうのは…普段ボクが住んどる所なんやけど……
あ、そうそう食料な、一護ちゃんが寝とる間にお粥さんだけやのうて、色々作り置きとか
冷凍してもろて届けさせたからチンするだけですぐ食べられるよ
まあ…レトルトも多なったけどそれはしゃあないな
やから、一週間はここで余裕で暮らせるで」
「…そんなことは、今はどうでもいい…」
さりげなく話題が逸れていく市丸に、一護の機嫌がどんどん悪くなる
今や地を這うような低い声で市丸に早く話せとばかりに眉間の皺をさらに深くする
「あー…そうやったな…
あんな、一護ちゃんボクの立場はなぁ……ショック受けんときいてや?」
一護ちゃんこわいわぁ…と呟きながら、まったく堪えてない市丸はそこまで言うと
一旦言葉を句切り、思い切るように深く息をすってから、一気に言い放った
「市丸組の組長さんや」
ああ…やっぱり………
愛した男が極道でした───という有名な映画のフレーズが頭をよぎる
確かにコイツが下っ端な訳がないのは分かっていた
わかっていたけれど………
なんでよりにもよって組の長なんだよ…と思う
市丸に会うまでは、恋人どころか初恋すらまだで、女の子ともまともに手も繋いだことのない
純情なチェリーだったのに……
なにも一気にてっぺんと付き合うことないじゃん俺………
ぐるんぐるんと回る頭に思考が停止しかけた一護にさらに市丸は追い打ちをかける
「ちょお待ち、一護ちゃん まだ話終わってへんよ」
「はい?」
「やから序々に話す言うてたのに…… あんな、もうショックついでや、一気に教えたる
ボク今東京おんねんけど、ウチの組の本拠地関西なんや」
「うん…お前関西弁だもんな」
なんかもう、これ以上はどうでもよくなって、一護はおざなりに返す
「うん、それでな…こっちの人間は…っていうか、堅気の人間のことやけど『市丸』いうても馴染み
ないやろうけど、関西で『市丸』いうんは無く子も黙るどころか、尻尾巻いて逃げよ思ても恐くて
逃げられへんっつーくらい有名なんや」
にぃっこりと口角をつり上げて飄々と、怖ろしい台詞を口にする
「ボクはそこの直系で、三代目や 正確に言えば三代目を継ぐ事になっとる
今ボクがもっとる『市丸組』いうんは、東でやらなあかん事があってうちの一家から
便宜上分家したもんや ただ…将来的にはボクが一家継ぐ事になるから、同じ事やけど」
「はあ……」
そんな内部状況を説明されても、この世界にまったく関わりの無かった一護には
うまく頭に入っていかない
それでも、必死で頭を巡らせて市丸の言葉を飲み込もうとする
…ってことはつまり、こいつは関西のめちゃくちゃ有名な…ってことはつまりかなりでかい組織の
息子だか孫だかで、つまり生まれた時から極道まっしぐらで、将来的にはそれ全部背負って立つ
人間だということで………
ぐるぐる回る思考の端で、市丸がふうっと大きくため息をつくのが見える
そして
「……だから言うたやん ボクとおるいうことは自由なんかあらへんって」
さくっと言ってのけた
つーか、俺ってその恋人か情人か愛人ってことだよな……!?
ぐらん…と一護の頭が揺れる
覚悟…はした
ちゃんと、した
全部やるとも、後悔しないとも言った
実際に市丸ギンと共に生きるということに関しては、一切の後悔はない
心から一緒にいたいと思う
でも、でも、しかし、だって!
話がでかすぎて…ついていけない………
つい昨日までは、本当に普通の一般人だったのに……
いや、今でも骨の髄まで一般人だ
もう、神様なんて金輪際信用しねえ………
「ほら、一護ちゃん呆けとらんと」
相変わらず自分の精神世界を彷徨っている一護に市丸が声をかける
「ギン……」
その声にふっと引き戻されるように市丸を見ると、そこには苦笑まじりの市丸の顔があった
「やから、時間おいて順番に話そ思てた言うたやろ
ショックなんわかるけど、そろそろこっち戻っておいで」
「ギン…」
「あんなぁ一護ちゃん 確かにボクの立場は一護ちゃんからしたら大仰なもんやと思うで?
まったく知らん世界の割には、映画だの何だので無駄に変な知識だけはあるしな
動揺する気持ちはわからんでもない せやけど、あんなん絵空事や
大丈夫、ボクとこ居る限りだぁれも一護ちゃんには手出しできへん
下手に下っ端んとこよりも、よっぽど安全や なにせボクのもんに手ぇ出したら最後
ボクの逆鱗に触れるんやから」
にぃっと口角をつり上げて市丸が笑う
「一護ちゃんはボクのもんや それにかすり傷ひとつ付ける言うことはどう言うことか
この世界に住む人間なら、みんなようわかっとるはずや」
ふと、うっすらと開かれた市丸の氷の瞳に冷酷が宿る
「やから、なぁんにも心配せんとき 一護ちゃんはちゃあんとボクが守ったる」
その言葉に一護はくっと唇を噛む
「俺は…別に…守られてぇ訳じゃねえよ……」
守られたい訳じゃない
守りたいのだ、誰かを
護りたいのだ、市丸の事を
そんな一護の気持ちを見透かしたように市丸が口調を和らげて優しく言う
「うん…わかっとる
やから、一護ちゃんはボク自身を護って?
そのかわりボクは一護ちゃん護らして?」
「なんだよそれ……」
市丸はまるで子供の理屈のような事を大人の顔で平然と言う
「一護ちゃんにもな、プライドあんのはわかんねん
せやけど、言うたやろ?状況によっては、一護ちゃんが何言うても聞いてはあげられへんって
お願いやから聞き分けたって?一護ちゃん、無鉄砲なトコあるから心配なんよ
ボクは一護ちゃんを組の仕事に関わらせるつもりは、これっぽっちもないし、むしろ関わって
欲しくない やから、おとなしゅうボクの奥さんでおって?」
真摯に言葉を紡ぐ市丸に、苦い思いをしながらも、頷くしかない自分の無力を思い知る
だれかに護られたい訳じゃないけれど…共に生きることでいずれ自分にもなにか見えてくるのかも
知れない
そう思って、市丸の言葉に頷きかけて………
「………っ!ダレが奥さんかっ!!!!」
「おや、一護ちゃん反応にぶいわ」
「あまりな台詞に脳みそついていかなかったんだよ!」
「まあええやん そのうち籍もちゃんとしたるし」
「ここは日本だ!男同士で結婚なんかできるか!」
「いややわぁ一護ちゃん ボクのこと誰や思てんねん 戸籍操作するくらい朝飯前や」
にっこりと笑ってとんでもない台詞を吐く
「いや!しなくていいしっ!」
「そんなこと言うたかて、一護ちゃんこれから実質市丸の家に入るんよ?」
「え……?」
動き出した思考が再びフリーズする
「やから…、ボクさっきここに住んでる訳やない言うたやろ?
丁度いいわ これからのこと話そか って言うか、ほんまはこっち先に話す予定やってんけど」
そう言って市丸は軽く居住まいを正し、呆然としている一護の手を取る
「一護ちゃん?」
「ん?ああ…」
「ほら、しゃんとしぃ 取り敢えずせなあかんこと話すから」
その言葉に一護は一つ瞬きをすると、ふるりと頭を振る
そうだ、もうつべこべ言っている段階は過ぎたのだ
あとはもう、先に進むだけ
ふうっと大きく深呼吸すると、ぐっと腹に力を入れて、小さくよしっと呟く
そして、覚悟を決めたように市丸を仰いだ
「うん、ごめんギン もう大丈夫
なんか昨日色々言ってた割にはやっぱり俺なんにもわかってなかったよな 悪い」
そういって潔く頭を下げる
「もういい ごめんなギン 無理矢理聞き出しといて動揺するなんて情けないよな
ホントに悪かった」
「…一護ちゃんは、なんも悪いことあらへんよ ボクが……」
「ギン、もういいから 取り敢えず今は謝られといてくれ
それより大事な話あんだろ?」
そう言って一護は先を促す
「ああ、そうやった じゃあいっこずついくわ」
そう言って市丸も、気を取り直したように話し出した
「まず…店…やけど……」
「やっぱり…辞めなきゃなんねぇ?」
それは、薄々わかっていたことだったけど、できれば今のまま辞めたくはないなと思っていた
でも、それは市丸の言葉であっさりと却下される
「せやね …というか…一護ちゃんには申し訳ないんやけど、実はもう辞めてんねん」
「は!?」
「オーナーと知り合い言うんは嘘でもなんでもなくてな ほんま昔からよう知ってんねん
やから、ちゃんと事情話して…一護ちゃんには悪いけど、昼間ボクらの間で決めさせてもうた」
ほんま、ごめんな
そう済まなそうに言う市丸に、仕方なく一護は頷く
「ん、なんとなくわかってたから、それはいいよ
あ、でも一つだけお願いしていい?」
「なんや?」
「今度…店にはちゃんと挨拶だけは行きたいんだ もちろんギンも一緒でかまわない
だから、ギンの都合がついた時にでも、一度連れてってくれよ」
一護の言葉に、市丸はしばらく逡巡したあと、頷いた
「ええよ でももう少し待ってな 必ず時間つくるし」
「おう」
そういって一護がにっこり笑う
「したら、それはそう言うことで
で、あと一護ちゃんの今住んでるとこやけど……」
「……引っ越し…?」
「うん、せやね できれば…というより…ほぼ強制なんやけど、
一護ちゃんはボクと住んで欲しいんや」
「付き合い始めてすぐ同棲かよ……」
「んー、申し訳ないとは思うけど、これも譲られへん」
「って言うか、お前はなっから何も譲るつもりねえんだろ」
「まあ、そうなんやけど」
市丸があっさり肯定する
「で?まだ何かあんのかよ」
「うん…まあ、これが一番重要いうたら重要やなぁ」
「だから、何?」
「住むトコここやないねん」
「……………………」
「やから…言うたやろ 一護ちゃん市丸の家入るて」
「入る…って…」
「東京のボクのおウチや つまり、これから一護ちゃん住む所は市丸組や」
市丸組…市丸組…市丸……組
ああ…父さん、母さん、ごめんなさい
あなたたちの一護はもう、いません さようなら………
一般人から一気に任侠の世界に踏み出してしまった一護は目まぐるしく変わる現実に
いっそのこと現実逃避したかった
ああ…どうしよう…
ホント今更だけど、ごめんなさいって逃げてしまおうか
いや、でもコイツの事だ
きっと地の果てまで追いかけられて、挙げ句の果てにはなぶり殺されるのは目に見えている
離れるくらいなら殺す…という市丸の言葉は伊達ではない
完全に本気だったし、それに対して、殺してくれとまで言ったのは自分だ
離れるくらいなら殺してくれ……と
それが、ただの睦言ではなく、現実にそうなるのだということも、一護にもわかっている
分かっていて吐いた言葉だ
だけど、まだ市丸の棲む世界に現実みのない一護には、ヤクザと言えば任侠映画の知識しかない
俺……これから毎日、強面のおっさん相手に過ごすのか………
つーか、仮にも巨大組織の三代目を継ごうという人間に、男の愛人が居ること自体どうなのか
しかも、こいつは、それを堂々と家に入れようとしている
てか、常識的に言って俺の周りって敵だらけじゃないのか!?
またもや自分の思考にぐるぐるしだした一護に、市丸は慌てて声をかける
「ああああ!一護ちゃん!また!ほら、戻っておいで!!!」
「………ギン……」
なんというか…あまりに色々なことがありすぎて、一護は涙目で縋るように市丸を見つめる
「一護ちゃん……」
その姿に、市丸はそっと一護を引き寄せて、安心させるようにそっと背中をさする
「ごめんなぁ、ほんま 一護ちゃんには辛い思いさせて……」
市丸の労るような声色に、すこしずつ一護の気持ちが落ち着いていく
「せやなぁ… なんもかんも一護ちゃんにとっては急過ぎるもんなぁ…
それはボクもようわかってるんよ
ただ…ボクのもんになったからには、ボクは全力で一護ちゃん守らなあかんねん
やから、なんも考えんとボクの側おって 絶対悪いようにはせんから
それにな、市丸の家も…たぶん一護ちゃんが考えてるほど、嫌な場所やない思うよ?
絶対に一護ちゃんの考えてるような恐い場所やあらへん なにせ、一護ちゃんが来る言うて
大喜びしとる人間がおるんやし」
「喜ぶ………?」
市丸の言葉に一護が怪訝そうに尋ねる
「うん…イヅルいうてな…幼い頃からボクの側付きやっとんねん
そいつがな、ようやっとボクに伴侶できた言うて、もう上へ下への騒ぎようや」
「伴…侶…?」
「せやろ?一護ちゃんはボクにとって、生涯唯一の伴侶や」
「でも…俺…、男なんだけど…」
「そんなん関係あらへん ボクが伴侶と決めたんは一護ちゃんだけや
それに、無理にボクの子供作らんかて、血族なんて妾腹含めたら掃いて捨てるほどおるんやし」
掃いて…捨てるほど……?
「せや まあ、爺さんにしろ、親父にしろ、能力ないくせにあっちの方は盛んでなぁ…
実際ボクも半分だけ血ィ繋がった人間なんて、どれくらいおるか知らんのや
まあ…それに…実際ボクの子種もどっかおるかも知れんし………」
「……!ちょっと待て!どういうコトだよっそれ!」
するっと、ものすごい爆弾発言を聞いた気がする
「ん〜、実際どうなんかわからんわ 今んとこそんな事聞いたことあれへんけど、
おったって不思議やないし」
市丸の言葉に一護は思わず頭を抱える
「………ったく……お前は……なにやってきたんだよ…今まで……」
「やって、しゃあないやん ボク一護ちゃんに会うまで、来るもん拒まずやったし…
正直一人で抜いとるよりマシやくらいにしか、思てへんかったし」
「……お前は………」
「誰と居っても、誰を抱いても、同じやった ほんまセックスん最中我忘れて止まらんくなったの
一護ちゃんが初めてや」
「ギン………」
その言葉に昨夜の行為が甦る
朦朧とした意識のなかで、市丸は酷く苦しそうに、欲望をむき出しにしたまま、何度も何度も
飽きることなく一護を貪った
あかん…止まらへん……
そう言いながら何度も────
「正直な、セックスと愛情なんてボクにとってはものすごくかけ離れたもんやった
ただの体の関係だけやと……正直、相性さえ良かったら、それでよかってん
せやけど、一旦そこに愛情が入られると、とたんに覚めてまう
ああ…、めんどくさ思て、いままでええ関係やったのも途端にどうでもよくなんねん」
「お前…サイテー………」
呆れたように呟く一護に、市丸が苦笑する
「うん… それは自分でもよう分かっとる やけど、それが今までのボクやったんや
ゆうべ一護のこと抱いててな、もう愛しゅうてたまらんかったんや
自分のどこに、こんな感情があったんや思うくらい、恋しゅうて、愛しゅうてたまらんくて……
ボクに感じてくれとる一護が、ほんま嬉しゅうてな…… このままずぅぅと一護んなかおって
一護のこと感じておりたいって思うたんよ」
「……ギン……」
「…なあ…一護…… このまま一護んなか入らして……」
吐息とともに耳元で甘く囁かれる誘惑に、一護の体がぞくりと粟立つ
「なぁ…ボクのもん銜え込んで…… 一護の狭いナカでボクのもんしゃぶって……」
「………ギ…ン……」
その直接的な言葉に、一護の奥がずんっと熱をもつ
「なんも考えんでええ 今だけは…ボクのことだけ見ておって……
ウチに戻るまで……それまでは…ただ…一護の恋人で居らせて……
ボクの立場も、置かれとる世界も……これから見ることになる一護の世界も……
全部忘れて…ボクだけを見て……求めてくれへん……?」
「……ギン……」
それは…、睦言というにはあまりにも悲しい市丸の願い
生まれ落ちたその瞬間から、すべてを背負わされた男の悲しい願望
なにもかもすべて忘れて……お互いだけを求めあう………
現実も理性も…なにもかも置き去りにして、ただ目の前の愛だけを貪る
人としての常識も、理性も、恥じらいも、なにもかもなくして────
ただ欲望のままに貪欲に相手を貪り尽くす
それは───なんて甘美で……同時に……──なんて悲しいのだろう
その相手に…市丸は一護を選んだのだ────
「………ギ…ン…………」
一護の裡に確かな欲望が灯る
この……男は………
愛というものを知らなかった、この悲しい男は………
確かに今、自分だけのもの─────
「……ギン……… いいよ……キテ……」
「……一護………?」
「……いいよ……抱いて…… 全部…受け止めるから…」
魂すら焦がすほどの悲しい欲望に………
「………俺のこと………めちゃくちゃに…して………」
焦がれるほどに一護は感じていた─────
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